INUS
『Western Spaghettification(ウエスタン・スパゲッティケーション)』


サンディエゴ出身のINUSのデビューEP。バンド名の由来は(The Universal for Navigating the Universal Self)を略してINUSで、カオティックでエクスペリメンタルな音楽を追求しているバンド。日本語で表記すると『全般的な操縦は全般的な自己』といういみで、なんだか意味がよく分からないバンド名だが、暴走したピアノから、制御の失った一昔前の古いデジタル音、電話から流れるインターネットの回線音、馬の鳴き声、なよなよした高音の猫なで声のボーカルにいたるまで、すべて音程の外れた音だけを寄せ集め、奇怪なサウンドを展開している。まるで100円ショップのようなチープでジャンクな素材を寄せ集め作った音。バンド名と同様に、わけの分からない混乱したカオティックなサウンドなのだ。

 

これだけデジタル音を詰め込んだら、普通もっと機械的で無機質なものに感じるだろう。だがここには、むしろ人間の温かみさえ感じる。その理由はおそらく、一昔前の古いデジタル音に、あえて音質を悪くして作ったサウンドを意図的にうまく融合しているからだろう。音程の外れた音からは人間の情けなさや愚かさといった感情を喚起させ、情けなさやジョークの奥に潜む狂気を感じる。

 

また一昔前のデジタル音を取り入れるという、だれも今まで誰もやったことがなかった新しさがある。唯一無二の独特なサウンドを持ったバンドなのだ。

REFUSED(リフューズド)
『WAR MUSIC(ウォー・ミュージック)』

4年ぶりとなる5作目。2010年の再結成以降、2作目となる作品で、精力的な活動を続けている。今作では、ハードコア・バンドらしいポリティカルな姿勢を貫き、体制側と戦い続けている。

 

『The Shape of Punk to Come(ザ・シェイプ・オブ・パンク・トゥ・カム)』の延長上にあるサウンドだった前作と比べると、今作ではノイズギターを中心としたシンプルなハードコア・サウンドに変化している。いうなら原点回帰。といっても、もっとハードコアをごり押ししていた2作目とは違い、ダンサンブルなビートやメタルギター、Rage Against the Machine(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)のようなカッティングギターに、戦闘モードのようなギターフレーズなどを取り入れている。

 

『WAR MUSIC(戦う音楽)』と名付けられた今作では、資本主義や腐敗した政治と戦うことがテーマ。 “Malfire(マルファイア)”では、ヨーロッパで台頭しつつあるファシストの首相の政策のせいで難民たちが増えている事実について歌い、“Economy of Death(経済の死)”では、労働者からの搾取で巨万の富を築く資本家や、新自由主義という経済システムの最後に行きつく顛末は戦争であると、怒りと懸念をもって述べている。そして“Damaged Ⅲ(ダメージドⅢ)”は、Black Flag(ブラッグ・フラッグ)のデビュー作、『Damaged (ダメージド)』に収録されていた“Damaged Ⅰ”、“Damaged Ⅱ”の続編といえるパートⅢの内容で、ここでは戦争による暴力によって、私はダメージを受けたと自己の傷心について歌っている。

 

その歌詞からは、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンばりの政治家や富裕層への怒りを感じる。だがサウンド的には、『ザ・シェイプ・オブ・パンク・トゥ・カム』にあった前衛的な姿勢や、世の中を変えてやるという意欲はやや後退している。聴き手を鼓舞させるような煽情性や激しく熱力が伝わってくるような迫力はあまりないが、そこには腐敗した世の中を是正していこうとする意欲を感じることができる。巨大な権力に屈服し、沈黙を守り、自主規制するバンドが多いなか、彼らの発言はストレートだし、本気なのだ。直截的なポリティカル思想にあふれた作品なのだ。

Cursive(カーシヴ)
Get Fixed(ゲット・フィックスド)

ネブラスカ州オハマ出身のポストハードコアバンドの9作目。1年ぶりとなる作品。前々作から前作までの発表が6年かかり、今作では発表までに1年の歳しか要していない。その理由は、おそらくチェロ奏者のMegan Seibe(メグアン・シーベ)が加わり、表現意欲にあふれた充実期に入ったからだろう。今作も前作の延長上にあるサウンドで、シュールレアリスム・ホラーのような神秘的で病んだ精神世界を追求している。

 

フリージャズのような劇的なホーンの音色が、当然不幸が襲い掛かったような気持ちにさせる“Horror is a Human Being(ホラー・イズ・ア・ヒューマン・ビーイング)”。おどろおどろしく愁いに満ちた悲しげなギターな印象的な“marigolds(マリゴールドズ)”。情緒不安定で発狂したような音色のキーボードが印象的な“Look(ルック)”。クラッシクのように上品で繊細な音色ながら洞穴に一人こもっているような暗い孤独を感じさせる“What’s Gotten into You?(ワッツ・ガッテン・イントゥ・ユー?)”と、今作でもノスタルジックでサイケデリックで奇異な音色を入れながら、独特なサウンドを追求している。

 

今作ではアメリカ国内にはびこっている怒りと絶望がテーマ。ボーカルのTim Kasher(ティム・カッシャー)は、全世界で蔓延している悲観的でどん欲なナショナリズムに触発された制作したそうだ。日本で例えるなら、地球温暖化を顧みず、日本企業の利益のためだけに火力発電を途上国に推進する身勝手な政策。そんな自己中心的な考えが全世界の国家間のなかで蔓延しているのだ。そんな自己中心的な考えの国家に対して、市民レベルでの感情論が展開されている。そこには怒りというよりも、強権から振りかざされる巨大な暴力に対する、メランコリックな精神を不安にさせる憂鬱な感情が支配している。まるで世界の終わりを予見しているかのように。

 

今作も独特な世界観と前衛的なサウンドを追求している。情緒不安精査と狂気を感じる素晴らしき作品なのだ。