アルバムレビュー

SPACED(スペースド)
『 Spaced Jams (スペースド・ジャムス)』

ニューヨークはバッファロー出身のハードコア・バンドのデビュー作。女性ボーカル、Lexi (レクシー)のシャウトが印象的なバンドで、気合の入ったハードコアを展開している。

Snapcase(スナップケース)やEVERY TIME I DIE(エヴリ・タイム・アイ・ダイ)や、Malfunction (メルファンクション)などのバンドを輩出したバッファーロー・ハードコア・シーンに多大なリスペクトを払い、伝統を重んじているバンドなのだ。

ヒスティックな高音ギターのテクニカルなアレンジからは、Snapcase(スナップケース)からの影響を感じ、そこにペースダウンしていくや野太く扇情的なコードギターからNo Warning(ノー・ウォーニング)の影響を感じる。テクニカルなギターフレーズとオールドスクール・ハードコアのスタイルと、The Avengers(ザ・アヴェンジャーズ)のような女性ボーカルのスタイルを取り入れ、自らのスタイルを確立したバンドなのだ。

歌詞は、欲深い資本家や人種差別主義や同性愛嫌悪、性差別をする人たちへの攻撃と徹底的な非難。リベラルでグローバルな思想を掲げている。Lexi (レクシー)の怒声と鼓舞が入り混じった歌声からは、弱者を見下し差別する人間たちに徹底的に戦っていく怒りと闘争心を感じ、スピーディーに駆け抜けていくハードコア・サウンドからは、爆発したフラストレーションの爽快さを感じる。

Snapcase(スナップケース)やMalfunction (メルファンクション)ほどのオリジナルティーは確立していないが、本来あるべきハードコアの魅力がここには詰まっている。メロディーも快適で発散した爽快にあふれた作品なのだ。

Slug(スラッグ)
『 Summer Songs 2021 (サマーソングス2021)』

オハイオ州クリーブランド出身のハードコア・バンドの2作目のデモ。ハードコア・パンクの中間にあるファスト・コアで、Discharge (ディスチャージ)などを取り入れた古典的なハードコアを展開している。

スウェーデンのStep Forward(ステップ・フォア―ド)やボストンのStop and Think(ストップ・アンド・シンク)やBoston Strangle(ボストン・ストラングル)に影響を受けバンドを始めたそうだ。ファッションもDYSやユース・クルーに影響を受けたベースボール・キャップにトレーナーを着た格好をしている

懐古主義者であまりオリジナルティーが希薄に感じるが、だがクリーブランドならではのどこか野暮ったい感覚をもっている。歌詞には“疎外”や“見苦しい感覚”といった言葉が並び、まるでクリーブランドの因習を否定しているような、閉塞感やうんざりしているような感覚がどこか漂っている。

けっして目新しいスタイルのハードコアではないが、クリーブランドという独特な空気をうまく取り入れたバンドといえるだろう。

Onelinedrawing(ワンラインドローウィング)
『Tenderwild(テンダーワイルド)』


90年代に活躍していたエモ/ポスト・ハードコアバンドのFar(ファー)のボーカルであるJonah Matranga(ジョナ・マトランガ)のソロプロジェクト。じつに18年ぶりとなる3作目。

Onelinedrawing(ワンラインドローウィング)とは、Jonah Matranga(ジョナ・マトランガ)がアコースティック・ギターで語り弾くスタイルのソロプロジェクトだ。ただのアコースティックの語り引きだけなら同じエモ/ポスト・ハードコア・シーンでも、Thrice(スライス)のDustin Kensrue(ダスティン・ケンスルー)や、本業のバンドMillion Dead(ミリオン・デッド)より人気が出たFrank Turner (フランク・ターナー)やDashboard Confessional (ダッシュボード・コンフェッショナル)など、同じようなソロプロジェクトを立ち上げているアーティストも多い。だがほかのバンドと違い、そこにテープ・レコーダーの雑音まみれの2トラックの録音や、壊れかけたおもちゃのようなチープなキーボード音などを加え、D.I.Yスタイルの手作り感を全面に出した。Onelinedrawing(ワンラインドローウィング)ならではの個性を持っているのだ。

チープなデジタル音と録音が魅力で、素朴でシュールな空気感が魅力の『Visitor (ビジター)』。牧歌的な静謐感と穏やかで夜空の星々を見上げるようなロマンティックな美しさの『The Volunteers(ボランティアーズ)』。アコースティックギターのみという、最低限の音で、あえて音を鳴らさない空間を作ることによって、シュールで穏やかで素朴な世界観を作り上げてきた。

そして18年ぶりとなる今作では、Dashboard Confessional (ダッシュボード・コンフェッショナル)のような、ロックよりのアコースティック・サウンドを展開。アコースティック・ギター中心のサウンドに変わりはないが、そこにドラムやピアノ、バイオリンなどの楽器を取り入れ、いろいろな音を加えた。バンド・アンサンブルを重視したサウンドを今作では展開している。

バンドアンサンブルにこだわった理由は、アルバムのタイトルにもあるように、Tenderwild(優しくワイルド)――壊れやすくも野性的な荒々しさを目指しているからだろう。いままでのOnelinedrawing(ワンラインドローウィング)は、触れたらもろく崩れそうな脆弱さが、どこかあった。今作でも脆弱さは健在だが、最悪な状況でも歯を食いしばって踏ん張るような力強さがある。

“Hell of a Year(ヘル・オブ・イヤー)”では、<今年一年は地獄だった。私たちはまだ死んでいないことを嬉しく思う>と歌い、“What I Know(ワット・アイ・ノウ)”では、<私たちは失敗だけではない。信じる。うまくいく。大丈夫。>と、“Hello From Here(ハロー・フロム・ヒア)”では、<トラブルに巻き込まれ、トラブルから抜け出した。あなたが私を愛してくれていることを知っている。>と歌っている。

そこには過去の失敗やトラブルなどの最悪な状況を経て、真実の愛や人を信じるといった境地にたどり着いた人生の物語がある。まるでレイモンド・チャンドラーの小説の主人公であるフィリップ・マロウの『タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格がない』という名台詞を思い出す。現実世界はコロナの蔓延や犯罪にあふれた最悪な場所で、時として怒りをもって断る勇気や、人と接することを断るなど、ワイルドにならなければ生きてはいけない。だが愛する気持ちや思いやりや優しさなどの感情を捨てては、人として生きる資格がない。時として人を傷つけるような非常な決断もするが、けっして思いやりや優しさを失ってはいけない。力強いロックのドラムと、ゆりかごのような心地よい優しいメロディーが、まるで交わらない絵具の色が美しい色に変わるように、リアリティーを持って心に突き刺さる。素朴さから複雑さに成長を遂げた今作も、すばらしい。