DESAPARECIDOS (デサパレシドス)
『PAYOLA (ペイオラ)』

PayolaPayola
Desaparecidos

Epitaph / Ada 2015-06-22
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15年6月に発表された2作目。じつに13年ぶりとなる作品。今回13年ぶりに2作目を発表した理由は、ブライト・アイズの活動が休止したのが原因だろう。ブライト・アイズは歪んたポップサウンドを取り入れたアコースティックで98年に発表したアルバム『レッティング・オブ・ザ・ハッピネス』で、彼らならではの田舎の悪しき風習を体現しているかのような暗くジメッとした世界観を確立した。

 

その後『フィーバーズ・アンド・ミラーズ』でピアノやカントリーなどの楽器や音楽性を取り入れ、サウンドの幅をさらに広げた。そして『アイム・ワイド・アウェイク・イッツ、モーニング』で美しいピアノの音色で世界感とは真逆の明るくポジティヴなサウンドへと変容を遂げた。その後オバー・コナースト名義のソロ作品を発表し、牧歌的なカントリーなどのアメリカルーツ音楽で原点を見つめ直し、安らぎと癒しに満ちたサウンドを展開。落ち着き払った鬱な世界観こそ共通しているが、シンプルな前衛的なアコースティックから、ビーチボーイズの『ペットサウンズ』のようなに多種な音楽を取り入れたサウンドを展開し、そしてルーツ音楽への回帰を図った。アルバムを発表するたび、いろいろなことにチャレンジしてきたのだ。だがその反面、毎回異なる音楽性のアルバムを発表することによって、表現しつくし、ブライト・アイズの音楽性自体が行き詰っていった。演りたいことをやりつくした。おそらくそれがブライトアイズの休止の理由だった。

 

音楽性に行き詰っていたから、またもう一度鬱から躁へ変革する必要にも迫られていた。だから13年ぶりにデサパレシドスを復活させたのだろう。そんな経緯を経て発表された今作は、オーセンティックなアメリカンロックをベースにしたサウンドを展開している。前作ではノイズギターをベースにしたエモーショナル・ハードコアであったが、今作ではノイズギターがなくなり、代わりにエクスペリメンタルなギターフレーズを導入している。“ゴールデン・パラシュート”ではバリバリ電流が流れるようなギターのリフで、“ラディカリゼッド”ではムーヴシンセのような電極がゆがんだ不協和音なギターを導入している。マイナーで実験的な音を出し、屈折したサウンドを展開している。総じてフレーズにこだわったギターロックを楽しんでいる。前作も今作も世間一般では不快といわれるサウンドのなかにポップさを見出そうという姿勢に変化はない。だが今作のほうがノイジーな尖りない分、サウンドがクリアーになり丸くなったように感じる。しかし外へ向かってストレスを発散させていく爽快感は前作以上に強固になっている。

 

今作では、アメリカ社会への政治的な怒りがテーマになっている。取り上げている内容は、移民改革、オバマケア、銃規制、ウォール街のことなど、アメリカ国内で起きた様々な問題を取り上げている。とくに怒りを感じているのが、大量殺人が起きているのに銃規制を強化しないアメリカ政府への怒りや、株投資だけで働かないで莫大な利益を得るウォール街や、リーマンショックで起きた金融危機で説明責任の欠如についてだ。

 

前作と同様に怒りをぶちまけ、スカッとする爽快感あふれた内容の歌詞もある。だが今作ではそれだけではなく、富裕層への嘲りや、アメリカンドリームへの皮肉もある。とくに今作で歌詞が深い内容になっているのは“シティー・オン・ザ・ヒル”。そこでは豊かさを求めてアメリカに移住する移民のことを歌っている。貧しい国から豊かさを求めてアメリカに来たはずなのに、逆に富裕層に賃金を搾取され、自国以下の低賃金で働かされという現実。貧しい自国に住んでいるほうがまだ豊かな生活を送れたと、皮肉に満ちた内容で歌っている。

 

前作同様、アルバム全体にはポップで熱く、青空のような爽快感あふれるサウンドを展開している。だがその明るさや熱さのなかには、スカッとした爽快感や、皮肉を嘲笑するポップな明るさという感情が散りばめられているのだ。深みを増した表現と、前作以上に実験性を増したギターサウンドがこのアルバムと魅力といえるだろう。個人的には前作のノイジーなギターサウンドのほうが好きだが、この実験性にあふれたギターを導入したこのアルバムも、かなりいい作品だ。