DESPAIR(ディスパイヤ)
『4 Years Of Decay (4イヤーズ・オブ・ディキャリー)』

4 Years Of Decay4 Years Of Decay
DESPAIR

RETRIBUTE RECORDS 2017-05-25
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現TERRORでボーカルを務めているScott Vogel(スコット・ボーゲル)が在籍していたバンドとして知られ、94年から98年にかけて活動したニューヨーク州バッファロー出身のニュースクール・ハードコア・バンドのディスコグラフィー・アルバム。彼らもまたSNAP CASE(スナップケース)やSlugfest (スラッグフェスト)、Buried Alive(ビルド・アライブ)などのバンドと同様、チュガ・チュガ・バッファロー・ハードコア・シーンを代表するバンドのひとつだった。

 

ここにはデビュー作である『One Thousand Cries (ワン・サウザント・クライズ)』から『Pattern Life (パターンライフ)』『As We Breed (アズ・ウィー・ブリード)』『Kill (キル)』まで、4作品が収録され、彼らの歴史すべてがこの作品に収められている。DESPIR(ディスパイヤ)とは日本語で<絶望>を意味するバンド名で、歌詞のタイトルが示すように、ここで歌われている内容は、ブラット・ピット主演の映画『セブン』のような世界観。4の Decay(腐朽)、5のDay Of Atonement(贖罪の日)、9のSeven Layers Of Waste(7層の廃棄物)、15のSalvation’s Slave(救済の奴隷)、21のTo The Depths Of Despair(絶望の深み)など、自分が抱える憎悪に対する罪悪感や、腐った世の中への怒り、考えれば考えるほど絶望の深みにはまる悪循環など、すべてが思慮的で暗い。自分が絶望と感じるすべてを歌詞にしている。

 

肝心のサウンドだが、スナップケースの変則的なリズムに、Earth Crisis (アース・クライシス)のスローテンポ、ギターコード、怒声を合わせた、スローテンポでグルーヴを重視し、怒声でがなり上げる展開。ニューヨーク・ハードコア以外のバンドからの影響を感じさせないドメスティクなハードコアだ。そのスローな展開、怒声、怒りをハンマーで叩きつけるようなリフやリズムは、典型的なニュースクール・ハードコアなサウンドで、彼らもまたニュースクールを象徴したバンドといえるだろう。

 

Hatebreed (ヘイトブリード)やConverge(コンヴァージ)など新しいスタイルのバンドたちが現れ始め、ニュースクール全盛期から徐々に衰退に向かっていた98年、彼らは解散をする。時代に取り残される前に。彼ら自身もおそらくニュースクール・サウンドへのマンネリ化が倦怠に感情が変わっていたのではないか。だからスコット・ボーゲルは、ニューヨークを離れてカルフォルニアに移り住み、環境もバンドも精神面でも何から何まですべてを変え、ゼロから再出発を図りたかったのだろう。結果、サウンドはスピーディーでエネルギッシュで闘争的で外向きな感情のテラーという、ディスパイヤとは真逆のベクトルのバンドを立ち上げた。すべては新しくもう一度、音楽への情熱を取り戻すために。

 

現在、オールドスクール・ハードコア・シーンを語った本やDVDはたくさん存在する。だがニュースクール・ハードコア・シーンに限っては不思議と再検証をした本やDVDが全く存在しない。もしニュースクール・ハードコアを検証した本やDVDが発売されるとするなら、おそらく彼らは外せない存在だろう。それほど一時代を象徴したバンドでもあるし、重要なバンドなのだ。