face to face(フェイス・トゥ・フェイス)
『 SHOOT THE MOON~the essential collection(シュート・ザ・ムーン~ジ・エッセンシャル・コレクション )』

シュート・ザ・ムーン~ジ・エッセンシャル・コレクション [DVD]シュート・ザ・ムーン~ジ・エッセンシャル・コレクション [DVD]
フェイス・トゥ・フェイス

デジタルサイト 2007-01-26
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その音楽活動は熱く情熱的で、なによりも自分たちに誠実だった。グリーンディやNOFXとならびメロコアの先駆者的存在であったフェイス・トゥー・フェイス。04年に、ファンに惜しまれながらも、13年間にも及んだ音楽活動に終止符をうった。このDVDは、バンド活動中に起こった出来事や解散の真相などを、製作に携ったスタッフ、新旧メンバーが、赤裸々に答えたドキュメンタリービデオに、9月に行われた解散ライヴの映像を加えた2枚組みの作品だ。

 

フェイス・トゥー・フェイスといえば、スノーボードやサーファーファンションなどと結びついたメロコアシーンのなかでも、ポパイに出てくるブルートみたいな屈強で粗暴な男臭さがあった。力強い人間が見せる、哀愁の漂った後姿。悲しい時に悲しいとはいえない男の性や、力強い男が時折みせる弱い自分。その想いを爆音ギターと性急なスピードにのせ、激しく疾走する姿が、何よりも彼らの魅力であった。そのサウンドは、泣きコアや哀愁コアなどと呼ばれ、明るくノー天気なバンドが多いメロコアのなかでも、異質な存在だった。

 

このDVDでは、バンド活動に一切の悔いが残らない、晴れ晴れとした気持ちがあふれたライヴもよかったが、なんといってももう一枚の活動の歴史を赤裸々に語ったヒストリービデオが衝撃的だ。

 

95年発表の『ビッグ・チョイス』以来、泣きコアという個性を確立した彼らだが、活動も中期に差し掛かると、初期衝動を捨て、哀愁を全面に出すようになった。スピーディーなメロコアから、ノイジーなギターを中心に、スローテンポのエモにサウンドを変えた99年発表の『イグノランス・イズ・ブリス』で、大勢のファンから失敗作の烙印を押された。そのファンを取り戻すため、プロデューサの意向で作られた『リアクショナリー(退化)』で、原点のメロコアサウンドに戻したか、結局ファンを取り戻せないまま、活動は下降線をたどっていった。

 

フェイス・トゥー・フェイスの活動の歴史とは、つねにファンとの戦いだった。メジャーに移籍をすれば批判の矢面に立たされ、自分たちがやりたい音楽を追求すればファンが離れていく。世間の評価と自分のやりたい音楽の狭間でつねに悶えていた。しかし屈強で男臭い彼らは、ファンに言い訳できるほどの愛想のよさはなく、あまりにも愚直で不器用すぎた。

 

だがインタヴューでは驚いたことに、『イグノランス・イズ・ブリス』を、メンバー全員が失敗作とは捉えておらず、むしろ一番好きな作品と答えている。彼らは、ファンや世間の評価を失っても、自分たちのやりたい音楽を選んだことに後悔はしていないのだ。

 
 
あれから10年が経ち僕も大人になった。歳を取り命令される立場から、指示する立場へと変わった。自分の意志を貫くということがどれほど、大変なことか理解できるようになった。当時のぼくは、彼らの行為を裏切りと捉えていたが、今となってみると、彼らの気持が痛いほど判る。人は時として、部下やファンに嫌われても自分の意志を貫かなければいけない。とくに判断力よりも決断力を問われる局面では、一歩間違うと最悪の結果に結びついてしまう怖さを知った。

 

このDVDに収められている内容は、人生のひとつの不幸な形かもしれない。だがどんなに悲しい運命をたどろうと、自分の一番好きなことを選択することが、人生で一番後悔しない決断なのだろう。彼らは実践をもって教えてくれた。このDVDを観れば、当時の彼らの活動に対して納得がいかなかった人でも、気持ちが理解できる。そんな、彼らの潔いよい発言や一直線で隠し事のない人間性は、とても魅力的だ。フェイス・トゥー・フェイスファンには必見の作品だ。