face to face(フェイス・トゥ・フェイス )
『ignorance is bliss(イグノランス・イズ・ブリス )』

イグノランス・イズ・ブリスイグノランス・イズ・ブリス
フェイス・トゥ・フェイス

ビクターエンタテインメント 1999-07-06
売り上げランキング : 478068

Amazonで詳しく見る by G-Tools

99年に発表された4作目。あきらかに失敗作。彼らの特徴であるスピーディーで切ないメロディーのメロコアはなくなり、内省的でゆっくりとしたリズムでカントリーの要素を含んだエモーショナルハードコアに変貌を遂げた。切なさは哀愁に変わり、より悲しみが深まった。もはや彼らの長所である、切なくも乾いたメロディーと疾走感は、失われてしまったのだ。

 

もともと似たようなサウンドの作品は作らないという信念のもと活動をしていたバンドだが、この作品の評価はアメリカと同様、日本でも不評だった。当時彼らは2作目『ビッグ・チョイス』ツアーでで初来日をはたした。その勢いのもと、3作目(フェイス・トゥ・フェイス)でON AIR WESTをソールドアウトにした。人気はのぼり調子で、4作目のツアーが3作目の規模をはるかに超えると予想され、当時新宿にあったリキッドルームで行われた。ON AIR WESTという小さなライヴハウスから中規模のライヴハウスに鞍替えをし、プロモーターの評価が、彼らの人気が日本で高まっていると判断されていた。ところが前回以下の集客で、会場が閑散としていたのを覚えている。その光景を見れば、ファンの期待は、スピーディーで激しいサウンドと切ないメロディーが持ち味の彼らを求めていたことが、理解できる。

 

作品を重ねるごとに成長し、心にしみる作品を作ってきた彼らにとって、この4作目は売れるか低迷するか真の評価が問われるアルバムだった。それが皮肉にも下降線をたどるきっかけになってしまったのだ。進化することを否定し、同じサウンドを頑なにやり続けたペニーワイズは、このあとも一定の人気を保つことができた。しかし彼らは、路線変更をしたため、メロコアブームというごく短期間のなかで、線香花火ように、激しく火花を散らし、消えてしまったのだ。

 

たしかに彼らの長所をなくしてまで変化したという意味では失敗作だ。だが、なかにはいい曲もある。とくに2、3、4曲目。とくに4曲目の“エヴリワン・ヘイツ・ア・ノウ・イット・オール”では、カントリー調の渋味の効いたエモーショナル・ハードコアで、<少なくとも俺の知っている世界は変えられる~行動しない連中を見ているのは、うんざりだ>と歌う。そこには、否定されても自分のやりたいサウンドをやろうとする意志の強さが伺える。彼らは初期衝動を捨て、大人の円熟味に向かっていたのだ。もしこの曲が、ファンやぼくの求める速い曲と組み合わせた、メリハリのつけたアルバムを作っていたなら、この曲たちはもっと評価をされていたのかもしれない。そう思うと、じつに惜しい作品だ。