Frank Turner(フランク・ターナー)
『Sleep Is for the Week(スリープ・イズ・フォー・ザ・ウィーク)』

Sleep Is for the WeekSleep Is for the Week
Frank Turner

Xtra Mile 2007-01-14
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イギリスの元スクリーモ系、エモーショナル・ハードコア・バンド、Million Dead(ミリオン・デッド)のボーカル、フランク・ターナーのソロプロジェクト。07年発表のデビュー作。元エモーショナル・ハードコア・バンドのソロプロジェクトといえば、ファーを経てワンライン・ドローウィングを立ち上げたジョナ・マトランガや、ファーザ・シームス・フォーエバーからダッシュボード・コンフェッショナル移行したクリス・ギャラハーを思い浮かべる。この3バンドに共通しているのは、アコースティック・ギターを主体としたサウンド。だが3者ともに異なる音楽性と歌詞の世界を追及している。エモやメロディックパンクの旋律をアコースティックギターに置き換え、失恋を苦しさや悔しさを我慢して噛みしめるように歌うダッシュボード・コンフェッショナルに対して、ワンライン・ドローウィングは手作り感あふれるチープなサウンドで、空虚な世界を展開している。そしてフランク・ターナーの場合、怒りや皮肉や不安を交えた20代の労働者階級のごくありふれた若者の日常と自身の人生について歌っている。アコースティックギターというシンプルなサウンドに熱のこもった歌声をのせながら、ひたすら語っている。

 

このデビュー作は、アコースティックギターを中心のサウンド。曲のベースになっているのは、アイリッシュ・フォークやスコティッシュ・トラッドなどのイギリス伝統音楽。そこには前バンドであるミリオン・デッドからの影響はない。前バンドにあった、弱々しい繊細さや激情、激しい衝動といった感情もない。あるのはミリオン・デッドでの挫折を経て再出発を図った現在の感情。そこには夢をかなえることができなかった挫折した感情を、しょせん人生とはそんなものさと、微笑している諦念にも似た感情がある。

 

とくにぼくが感動したのは“ブラック・イン・ザ・ディ”の歌詞。ここではパンクが好きならば、誰もが一度はそんな思いをするだろうという気持ちを歌にしている。ブラッグ・フラッグとマイナースレットに出会い、怒りの捌け口を見つけ、パンクによって人生が変わり、俺は救われた。そしてパンクによって世の中を変えてやる。――といった内容だ。だがその物語の顛末は、なにも変えることができなかった。でも当時の楽しかった思い出や、パンクに出会ったときの熱い気持ちは今でも残っている。俺たちはいい時間をすごした。と、歌詞はそんな内容で締めくくられている。

 

彼の人生に当てはめれば、世の中を変えてやるといった気持ちで始めたミリオン・デッドも、結局はうまくいかず、バンドの夢をあきらめた。だがパンクがいまでも好きで、その情熱が冷めず、新しいプロジェクトを立ち上げた。――ということだろう。

 

深い挫折を経て、異なるサウンドで再出発を図った。フランク・ターナーの音楽人生の第二章を告げるアルバムだ。彼のパンクへの情熱はいまでも熱い。