Fucked Up(ファックド・アップ)
『Glass Boys(グラス・ボーイズ )』

グラス・ボーイズグラス・ボーイズ
Fucked Up

ホステス 2014-06-24
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14年に発表された4作目。前作のロック・オペラとはうって変わり、ここでは1stアルバムのような原点回帰なサウンドを展開している。今作では、シーン自体が硬直化し、無害なバンドたちばかりが増えた現在のパンクシーンを憂い、かつてすばらしかった過去のパンクシーンのような、活気を取り戻すことがテーマにしている。精神的な意味で言えば、ラブソングなどのハッピーソングを歌う、無害なバンドたちばかりが増えた現在のパンクシーンを痛烈に批判し、70年代のパンク・バンドのような、闘争的で有害なパンク・アティチュードを取り戻す、ということなのだろう。そのアティテュードが反映されているサウンド面では、かつてセックス・ピストルズのジョニー・ロットンが、「ロックは死んだ」と発言したことによって、古きスタイルのロックを解体し、今までになかった新しい形のロック・サウンドを提示したように、ロックを新しく生まれ変わらせることがテーマになっている。

 

今作では前作で確立したハードコア・オペラを辞め、『ケミストリー・オブ・コモン・ライフ』で確立したサウンド・フォーマットに、60年代のサイケやREMなどメロディーを加え、色彩豊かな作品に仕上がっている。6分代の曲が中心だった前作よりも3分から4分台の曲が増え、時間が大幅に短縮されている。たとえば“サン・グラス”では、アコースティックと女性コーラスの軽快な音に、熱く気合の入ったボーカルの怒声を加えることによって、さわやかさと熱汗という相反する要素が混ざり合う奇妙なサウンドを展開している。“ワーム・チェンジ”では、ダグ・ナスティーのような元気なメロディーと60年代の暗く陰りのあるサイケデリックなメロディーに、ハードコアの分厚いサウンドを融合してミステリアスなサウンドを展開している。総じて木陰でまどろむのような明るいメロディーが中心で、そこに相反する熱さや気合などのボーカルが加わることのよって、二律背反を強調し、新しい形のハードコアのスタイルを提示している。

 

だがボーカルの迫力こそ相変わらずだが、『ケミストリー・オブ・コモン・ライフ』とは違い、サウンドの前へ進んでいくような突破力や気合やパワーといった熱量がない。あるのは気だるさと休憩しているときのようなゆるさだ。爽やかさと熱汗のコントラストが、感情的に中途半端になっている。今作のテーマである、前衛的なパンクであろうとする姿勢が、返って逆効果を招いてしまった。演奏技術や新しいサウンドを追求するあまり、表現しようとしている感情が置き去りになってしまっている印象を受けた。サウンド的には新しい形のハードコアを提示したことは間違いないが、彼らの持ち味であるストロングなハードコアの突破力とパワーが失われてしまっているところが残念に思えた。