Twin Forks (ツイン・フォークス) 
『LP』

Twin ForksTwin Forks
Twin Forks

Dine Alone Records 2014-02-24
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14年2月に発表されたデビューアルバム。昨年の発売されたデビューEPは、ダウンロードのみの販売であったが、デビューアルバムはCDで発売された。EPに引き続き、アメリカン・フォークやカウボーイ・カントリーなどの40年代から50年代のアメリカ白人のルーツ・ミュージックをコンセプトに、アコースティック・ギターが中心のサウンドを展開している。

 

アルバムは全12曲で、うち5曲はEPからの曲。今回7曲の新曲が収録されている。前EPに収録された5曲は、ルーツ・ミュージックに忠実な演奏で、アップテンポで至福感に満ちた曲だった。ところが新曲では、スローテンポのバラードが多い。“デンジャー”はかすれた歌声で、“リーズンド・アンド・ラフィンド”ではキャンプファイヤーで歌われるような夜空を見ながら歌うバラードのような歌だ声。牧歌的で味わい深いフォークを展開しているのだ。新曲ではちょっと時代が新しくなり、60年代後半から70年代前半のフォーク・ソングにチャレンジしている。

 

全曲、ルーツ・ミュージックに忠実なサウンドで、オリジナルティーこそ希薄だ。だがこのアルバムのなによりすばらしい部分は、クリスがこれまでになく多彩な表情を見せているところだ。たとえば“クロス・マイ・マインド”では豊作を祝うような祝祭的な楽しいムードで、“キス・ミー・ダーリング”では、好きな人に想いが届いて欲しいと願う愛らしさが伝わってくる。また“プランズ”では、悲しみと切なさに満ちている。これほど喜怒哀楽の表情を見せたのは初めてではないか。その多彩な感情が、クリスの歌声の魅力をさらに際立たせ、聴くものをその世界に引き込む。クリスの想いが素直に共感できるし、感動さえある。同じ気持ちになれる。それがこの作品の魅力なのだ。

 

この作品は、クリス・ギャラハーのボーカリストとしての魅力と可能性を、さらに押し広げた作品といえるだろう。クリス・ギャラハーというソロ名義では、オルタナティヴ・ロックなどの自分が好きだった音楽という原点を見つめ直し、そのあと再結成したファーザ・シームス・フォーエバーでは、音楽を始めたときの初期衝動を取り戻した。そして今作ではアメリカ・ルーツミュージックを追求することによって、いろいろな歌い方と多彩な感情を獲得した。もはやダッシュボード・コンフェッショナルの初期ころに歌っていた女の子に振られたときの悔しさや悲しみといった感情を表現することはできない。女の子にフラれた当時の気持ち自体、失ってしまった純粋さや感情なのかもしれない。だが、ある意味それしかなっかた当時のころと比べると、圧倒的にヴァラエティーが広がっている。クリスの円熟とは、枯れや深みを表現するのではなく、貪欲にいろんなものを取り入れ多彩な表現を獲得している部分なのだ。いろいろな音楽を吸収することによって、クリス・ギャラハーの美声がさらに磨きがかかっている。そういった意味ではいい年の取り方をし、ミュージシャンとしていい方向に成長している。