letlive.(レットライブ)
『If I’m The Devil… (イフ・アイム・ザ・デビル)』

IF I'M THE DEVILIF I’M THE DEVIL
LETLIVE

EPITA 2016-06-09
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おそらく現在のへヴィー系音楽の最前線にいるのは、彼らだろう。メタリカなどのスラッシュメタルから、パンテラのパワーメタル、リンプビズキッとなどのニューメタルとシーンが変遷し、そして現在、スリップノットやイン・フレイムなどのメロデス・デスコアが音楽シーンの中心いる。どのバンドもスリップノットやイン・フレイムの影響下から抜け切れず、デス声を中心に据えた音楽を展開している昨今、彼らは主流派とは全く異なるアプローチで、新しい形のへヴィネスを提示している。

 

とくに前作『ザ・ブラッケスト・ビューティフル』は、コンガのリズムをヘヴィネスサウンドに取り入れ、新しいスタイルのへヴィーロックを展開していた。トライバルなリズムが闘争心を掻き立て、性急なスピード感が苛立ちといった感情を煽っていく。そして怒りの感情をマックスまでに振り切った、ボーカルのシャウト。そこには理性のかけらもない本能だけで動く暴力衝動がある。理性を失った究極の躁病的なサウンドだったのだ。

 

そんな激しかった前作と比べると、今作では静かさや穏やかさなどの、鬱な感情を追求している。今作でもア・トライブ・コールド・クエストやカニエ・ウエストなどのヒップ・ホップから、ニューロマンティックやゴズ、ヨーロッパのクラッシク調のメロディーなど、いろいろな要素をハードコアに取り込んでいる。いろいろな要素を取り込む無国籍で雑多なハードコアという姿勢は変わらないが、そのなかでもとくに目立つのがスローテンポのバラード曲の多さ。スピーディーな躁から、スローテンポな鬱へと180度異なるアプローチのサウンドを展開している。

 

ここにあるのは叙情的で、繊細さと妖艶な美しさのある穏やかなメロディー。繊細さの奥にデリケートな神経質さを感じる。メロディックになったといっても、けっしてポップで大衆受けするノー天気な明るさを追求しているわけではない。今作もパンクな姿勢はブレることなく一途に貫かれている。とくに3曲目の“グッド・モーニング・アメリカ”は、白人警察から不当に暴力を受ける黒人や、マルクスとゲバラの理想論を掲げ、貧困からの脱却など、差別と虐待を受けている弱者の気持ちを代弁している。そこには迫害されている者たちの悲惨な苦しみの感情が、切実なほどひしひしと伝わってくるのだ。

 

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンから受け継ぐ、政治的なメッセージは今作でも健在なのだ。サウンドが変わったからといっても、反逆のパンクバンドでいることに変わりはない。今作もまぎれもなくパンクロックの最前線にある作品なのだ。