Letlive (レットライヴ)
『Fake History (フェイク・ヒストリー)』

フェイク・ヒストリーフェイク・ヒストリー
レットリヴ

TRAGIC HERO JAPAN 2010-06-16
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10年発表の2作目。彼らのオリジナルティーを確立し、人気を獲得したのはこの作品から。今作を発表するまでじつに5年の歳月を要した。その間、リード・ボーカルのバトラーと、バッキング・ボーカルのジェイ・ジョンソンを残し、すべてのメンバーが入れ替わった。過去をすべて捨て、ゼロから再出発を図った作品でもあるのだ。

 

今作では前作のデリンジャー・エスケープ・プランやザ・ユーズドなどに影響を受けたカオティック・ハードコアやスクリーモ・サウンドから、リフューズドやダウンセットをベースにしたポスト・ハードコアに変化した。いろいろなフレーズを切り貼りしたサウンド・フォーマットの部分では、あまり変わっていない。だが前作とは、まったく異なるサウンドを展開している。その理由はマッチョでストロングタイプのハードコアに変貌を遂げているからだ。前作はとくにスクリーモからの影響が強く、ヒステリーに満ちた金切り声のスクリームには軟弱で弱々しさや華奢なイメージがあった。そんな前作と比べると、今作ではエモーショナルで力強く尋常でない熱量と情動がアルバムを支配し、過去2作のとは音の迫力そのものが違う。

 

そのサウンドはリフューズドやダウンセットをベースにしたハードコアに、サルサのマラカスのリズム、マタドール・ギターを加えた新しいのスタイルのポスト・ハードコア。この作品と代表曲となるであろう“ハームレス・ジャズ”では、高いテンションを叩き付けたノイジーで扇情的なハードコアのギターと、ブラストビートが怒りを高揚させ、そしてクライマックスに達するサビの部分で、いきなり静けさに満ちたマタドール・ギターに変わる。そこには理性が吹き飛ぶような怒りから冷静さを取り戻し、死を覚悟した勇敢さに変わるような感覚がある。

 

その尋常でない狂った勢いから、悲しみや孤独が漂う寂寥へと変わっていくサウンドには、まるで怒りから革命へとかわっていくチェ・ゲバラのような中南米独特の革命意識と、孤独と寂しさ、怒りと悲しみが漂っている。メンバーにアフリカン、アメリカン、メキシカン、アイリッシュといった人種で構成されているせいか、自らのルーツ音楽をゴチャマゼにして再構築する技術に長けている。コスモポリタンな感覚が、バンドに反映されていることが彼らの特徴のひとつである。もうひとつの特徴である彼らの出身地、ロサンゼルスという出自がそうさせるのか、精神的な部分では確実にレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやダウンセットなどの影響を色濃く感じる。その影響とは、マイノリティーならではの差別からくる怒りと政治不信。虐げられた環境を変えようとする怒りがトリガーとなり、革命意識へと変化しているのだ。

 

サルサのリズムなどの中南米の要素を加えたハードコアは、彼らの出自やアイデンティティー、ルーツを再確認しながらも、彼らしかありえない独特なサウンドを展開している。そこには90年代にヒップホップの要素を加えたコーンや、変則的なリズムでザクザクと刻むギターのリフが特徴のレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンに匹敵するオリジナルティーあふれるサウンドがあるのだ。なお1年後の4月にエピタフ・レコーズから作品を評価され、再リリースされた。