THE Gaslight Anthem (ザ・ガスライト・アンセム)
『Get Hurt (ゲット・ハット)』

Get HurtGet Hurt
Gaslight Anthem

Mercury 2014-08-11
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14年に発表された5作目。前作『ハンドリトゥン』は、ファンク、ブルースにクラッシュ系のパンクロックを融合させた60年代の匂いがするパンクロックだった。その作品と比べると、今作ではバラードが多くアップテンポのパンクナンバーがなくなり、現代よりのサウンドで、静的な作品に仕上がっている。

 

今作では<怪我>と名付けられたアルバムのタイトルどおり、心に負った傷をテーマにしている。ボーカルのブライアン・ファロンが、自身の体験した離婚の体験談をベースに、そのときの負った心の傷や痛みなどの感じた感情やエピソードなどを赤裸々に語っている。“ステイ・ヴィシャス”では、軽やかで切ないメロディーと淡々と不幸を語るような感情を制御した歌い方で、心の奥底にある悲しみを堪えている。“ゲット・ハット”は繊細でシリアスなメロディーが、全てが終わったときの絶望感が漂ってい、“セレクトド・ポエム”では失敗から学んだ姿勢があり、“ブレイク・ユア・ハート”はブルース・スプリングティーンの『ネブラスカ』に影響を受けた温かみのある素朴なバラードで、まるで遠くを眺めているような歌声で、傷口が癒え痛みを乗り越えたことによって、人間的な経験値が上がった。傷を負い、癒えていく過程を物語風に語っている。

 

全体的にミドルテンポのバラードが多く、素朴でやさしく切ない美しいメロディーが魅力の作品だ。サウンド的にも新しいことにチャレンジしている。その新しさとはエモからの影響。今作ではエモの静の部分を突き詰めブルース・スプリングティーンの歌い方を混ぜた。彼らの魅力とはいままでブルースなどの60年代の古きよきアメリカ・サウンドに、ブルース・スプリングティーンとクラッシュ系のパンクをさせたサウンドにあった。60年代の要素がなくなり、サウンド的にも軟弱なイメージのあるエモを取り入れ、大幅に変わってしまった印象を受けるだろう。だが彼らの本質はまったく変わっていない。繊細で切ないメロディーを取り入れても、軟弱にならない理由は、男くさいボーカルにある。そこにあるのは高倉健のような無口で静かな朴訥さ。心の痛みを我慢強く耐えている不器用な男くさい姿があるのだ。彼らの本質はまったく変わっていないのだ。悲しみを我慢強く耐えている姿勢には共感できるし、今作も安定していいアルバムなのだ。