Various Artists
『Ground Zero』

13年発売の14バンドが参加しているニューヨーク・ハードコア・バンドによるコンピレーションアルバム。収録されているバンドは、ラ・ミスマ、デフォミティ、ノマド、グースバンプス、ブラック・ブート、プットライダ、アナサーズィ、マドラー、サッド・ボーイズ、ブルトガング、クレイジー・スピリット、パディッション、ダーン・オブ・ヒューマンズ、ハンク・ワード&ザ・ ハマーヘッズの14バンドが収録されている。

 

このなかで僕が知っているバンドはひとつもなかった。しかもこの作品を聴くまで、ニューヨークには、主流派とは別のハードコアシーンが存在していることすら知らなかった。なによりそのサウンドに驚かされた。個人的な印象としては、ニューヨーク・ハードコアとは、アース・クライシスやヘイトブリードに影響を受けたバンドが、ニューヨークのニュースクール・ハードコアの主流で、都会の洗練された不良の匂いがするマッチョで闘争的なバンドがひしめいているシーンだと思っていた。サウンドもデス声や、アグノスティック・フロントからシック・オブ・イット・オールへと受け継がれ、アース・クライシスへと継承されてきた重厚なギターのリフが中心だと思っていた。

 

でもそれは大きな勘違いだった。この作品を聴くと、ここに収録されているバンドでヘイトブリードやアース・クライシスに影響を受けているバンドはまったく存在しない。影響を感じるのはイギリス初期パンクとハードコア。なかにはアタリ・ティーエイジ・ライオットのようなブレイクビーツばりのノイズを垂れ流しているバンドもいる。でも収録されているほとんどのバンドが、カオスUKのようなノイズ・コアなどに影響を受けたバンドばかり。どのバンドもバリバリ響くノイズギターが特長的だ。そのなかでもとくに印象的なのが、女性のヒステリックな金切り声で歌うラ・ミスマや爆撃機のようなノイズ垂れ流しのグースバンプス、野太いベース静かな暴力を表現しているマドラーなどだ。どのバンドも尖り歪みまくっている。日本語で、奇形、隔離されたインディアンの住居、腐敗、殺人など名付けられたバンド名からも分かるように、彼らはメインストリームから隔離され、腐臭と腐敗にまみれたバンドたちの集まりだということが理解できる。すべてのバンドが暴力的で悪意に満ちている。でもそれがカッコいい。

 

アース・クライシスたちのシーンが地上とするなら、トラッシュ・トークやAl-Thawaraなどの黒人やムスリムたちによるハードコアシーンはちょっと離れた海中。そして『グランドゼロ』に収録されているバンドたちは、深海に属しているといえるだろう。世間から隔絶され、独自に進化を遂げたバンドたち。名声や金のためにやっていないから、自分たちの好きな過激なサウンドを追求している。まさしくニューヨークの陰の部分を象徴し、さらに暗闇、アンダーグランド中のアンダーグランドのバンドたちなのだ。これはすごい作品だ。