Heroin (ヘロイン)

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Heroin

Gravity Records 1997-01-24
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89年から93年にかけて活動していたヘロインの、97年に発表したすべての作品を網羅したディスコグラフィー的な作品。その内容は、91年に発表された7インチ・シングル『オール・アバウト・ヘロイン7』から6曲。92年に発表された7インチ『ヘロイン』から4曲。93年に発表された12インチ・シングル『ヘロイン』から6曲に、3曲プラスされた、計19曲が収録されている。

 

ぼくが彼らの存在を知ったのは、アップルシード・キャストのインタビューでの発言だ。エモの先駆者である彼らが影響を受けたバンドとして挙げていたのが、ライツ・オブ・スプリング、ヘロイン、ジュリアといったバンドたちだ。そのとき以来個人的に、ヘロインというバンドのことがずっと気になっていたが、日本の雑誌では彼らのことを紹介されることがまったくなく、つねに無視し続けられてきた存在だったのだ。このたび彼らのCDを入手したので、レビューを書くことにした。

 

とうやらヘロインというバンドは、アメリカではスクリーモの先駆者として語られているようだ。エモーショナル・ハードコアというジャンルが、エムブレイスやライツ・オブ・スプリングなどによって産声を上げたころ、そのバンドたちやオールド・スクール・ハードコアを聴いた育ったヘロインのメンバーたちは、ライツ・オブ・スプリングのサウンドスタイルをさらに推し進めた。熱く叫ぶボーカルは、しゅうし絶叫するスタイルへと進化し、センチなメロディック・ギターはなくなり、分厚くノイジーでカオティックに変化した。

 

このアルバムで展開されているサウンドは、終始絶叫するスタイルのボーカルと、分厚くノイジーなギターサウンドだ。ギタースタイルはハードコアをベースにしているが、ところどころにメロディー・パートが加わっている。そして高速スピードのドラミングによって、分厚いギターとメロディー。絶叫ボーカルという個々に際立つ要素が歪な不協和音を生み、全体の印象をカオティックなものにしている。そのあたりが終始ハイテンションで闘争的なハードコアとは違うし、静と激のコントラストがあるエモーショナル・ハードコアとも違う。精神状態がめちゃくちゃで、マッドなカオティックを生んでいるのだ。

 

その絶叫するボーカル・スタイルから、スクリーモの先駆者として語られることになった。だが実際に一部の例外を除いたスクリーモと呼ばれているジャンルのバンドたちは、メタルやハードロックからの影響が強い。メタルやハードロックのメロディーパートにハードコアのコントラストがあるバンドたちが、スクリーモと呼べるだろう。そういった意味で、ヘロインはスクリーモからかけ離れている。いうならエモーショナル・ハードコアとカオティック・ハードコアの間をつなぐ存在が彼らとは言えるのではないか。エモーショナル・ハードコアよりも過激なサウンドで、カオティック・ハードコアよりも混沌とはしていない。それがヘロインのサウンドなのだ。

 

おそらく彼らの存在がなければ、コンヴァージもデリンジャー・エスケープ・プランも存在しなかったのではないか。日本ではそれほど評価されていないが、エモーショナル・ハードコアとカオティック・ハードコアの間をつなぐ上で、重要なバンドだったのだ。