JIMMY EAT WORLD(ジミー・イート・ワールド )
『DAMAGE(ダメージ )』

ダメージダメージ
ジミー・イート・ワールド

SMJ 2013-06-25
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13年発表の8作目。この作品でも似たようなサウンドの作品は作らないという意志が貫かれている。ただ今作では、色々と迷いが生じたようだ。だから前2作までのセルフプロデュースから一転し、今作はプロデューサーにアラン・ヨハネスを起用。その理由は、客観的に意見を言ってくれる人がほしかったから。つまり作った曲がいい曲なのか、悪い曲なのか、自分たちで客観的な判別がつかなくなっていたという。だから外部に判断を委ねたのだ。

 

そんなプロセスを経て完成した今作では、アコースティックギターを中心とした穏やかでやさしく柔らかいサウンドを展開。サウンドアプローチこそ、ダッシュボード・コンフェッショナルのアコースティック・エモに似ているが、そこにはバーズやスミスからの影響を感じ、アメリカの古きよきサウンドを取り入れている。ジムの歌い方もエモーショナルな叫びから抑揚を抑えた歌い方に変わった。そしてなによりひさびさにジミー・イート・ワールドの個性である、キラキラ・メロディーのギターが復活した。その柔らかなアコースティック・ギターの“”からは、川のせせらぎのような清冽な穏やかさを感じ、星空のようなキラキラメロディーが魅力のバラードである“プリーズ・セイ・ノー”からは慈しみを感じる。感情が高揚していく典型的なエモな曲である“バイバイラヴ”では、辛い気持ちを叫ぶように恋の終わりを歌っている。そして雑音が入り混じったアナログ録音で、素朴なアコースティックの“ユー・ワー・グッド”では、終わった恋の後に残された孤独な気持ちを歌っている。そこには息が詰まるような寂寥や、悔しさ、穏やかな悲しみ、といった感情を感じる事ができる。

 

その理由は今作のテーマにある。そのテーマとは、大人の失恋。大人の人間関係よる葛藤や、破綻を扱っている。“ダメージ”では、<ぼくたちの仲はもはや繋がる可能性もないほど壊れてしまったのか?>と歌い、“ブック・オブ・ラヴ”では、<小さなことなんて心配していなかった。それが意味していたことも知ろうとしなかった>と歌っている。彼らの言う大人の失恋とは、長い恋愛の末の別れ。時間を積み重ねによって生じる誤解やすれ違い。お互いに気持ちを理解し、本音を知ることへの恐れ、最期は孤独という悲惨な結末などだ。

 

ジミー・イート・ワールドというバンドは、『ブリート・アメリカン』という例外を除けば、一貫して、悲しみや切なさといった感情を表現している。そのなかでも代表作である『クラリティー』では、失恋を初めての経験する子供のようなヒステリックな悲しみや、混乱、心に受けた傷口などの、思春期特有のナイーブで傷つきやすいデリケートな内面を歌っていた。そのころと比べると、相手の気持ちも理解できるようになったし、傷つきあう事をなるべく避け、心が混乱する事もなくなった。いろいろな人生経験をつんで、大人になったのが理解できる。

 

サウンドも悲しみという同じベクトルでも、清廉で神経質な音だった『クラリティー』と比べると、感情の抑揚のある温かみのある音で、表現の幅が確実に広がっている。そこに大人の余裕を感じる事ができる。『クラリティー』という作品が若気の至りとするなら、大人になって理解できたという回答がこの作品といえるだろう。