RANCID(ランシド)
『Live At The Garage London(ライヴ・アット・ザ・ガレージ・ロンドン)』

95年にロンドンで行われたライヴ。下記にあるバンド・ポームページから無料配信している。アメリカでは、現在のパンクのオピリオンリーダーとしてその地位を確立したランシド。当時UK初期パンクがベースになっていいるそのサウンドは、けっして目新しいものではなかった。でもアメリカであれだけの人気が出た理由は、モヒカン頭に鋲のついた革ジャン、タトゥーまみれのそのヴィジュアルと、ヘヴィーなパンク・サウンドに漂っている西海岸特有のカラッとした爽やかな明るさにある。怒りに満ちたイギリス・パンクを、カラッと明るく楽しく聴かせるセンスは、彼らしかありえなかったし、アメリカ人からすれば、鋲ジャンにモヒカン頭というヴィジュアルは、奇異に映る格好だった。まさにはみ出しもののためにある音楽であった。しかしそのサウンドは、ポップで、ある種の嬉しい気持ちにさせてくれる楽しさが漂っている。そのギャップが彼らの魅力であった。5作目のまでの彼らはどんなヘヴィーなサウンドを展開しても、西海岸特有の明るくカラッとした爽やかさが漂っていた。パンクファッションやUKパンクに影響を受けたサウンドという、こだわりこそあっても、ランシドというバンドは、アルバムごとにサウンドは変化してきた。UK色の強いハードコアパンクの2作目から、スカパンクの3作目。スカ・レゲェーをさらに突き詰めたパンクの4作目、ディスチャージのような荒々しいハードコアの5作目と、サウンドが大幅に変化してきた。だから彼らの最高傑作をどのアルバムにしぼるのかは難しい。彼らの最高傑作を3作目に上げる声は多いが、個人的に一番好きなアルバムは5作目だ。

 

この音源の話に戻るが、なぜ彼らが95年のライヴを無料配信に踏み切ったのかといえば、おそらく本人たちも3作目を最高傑作に上げているからだろう。だからコンディションのいい状態のこの時期のライヴを、初めて聴くファンに提供し、なおかつコアなファンにも納得のいく音源を配信したのだろう。

 

肝心の内容だが、スラップベースや力強いドラムのリズム隊こそすばらしいが、ランシドというバンド自体、けっして演奏のうまいバンドではない。でもそれがいい。正確な演奏よりも衝動と荒々しさを重視している。ノイジーなギターサウンドからは、グランジ・ファッションのようなおしゃれな味わい深さがある。おそらく世間一般の人々から見たパンクのイメージを忠実に実践しているバンドといえるだろう。汚い音からは、暴力的な不良の匂いが伝わってくるパンクなライヴなのだ。

 

次のアルバムでスカを極める方向に進み、その次のアルバムではハードコアな方向に進む。5作目以降の彼らのライヴは、音楽の範囲が広くなりすぎて、散らかった印象を受けるが、だがまだこの時期は、クラッシュ系の8ビートの初期パンクの曲と、スカの曲もパンクがベースにあるため、初期パンクに絞られれているし、スピードも一定。パンクバンドの攻撃的なアグレッシヴさもある。まさしく、いい時期のライヴなのだ。