Really Red (リアリー・レッド)
『Teaching You the Fear: the Com(ティーチング・ユー・ザ・フィア:ザ・カム)』

Teaching You the Fear: the ComTeaching You the Fear: the Com
Really Red

Alternative Tentacle 2015-01-19
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79年から85年にかけて活動したテキサス州出身のハードコア・バンドの全作品を総まとめし2015年に発売されたコンプリート・アルバム。彼らはアメリカン・ハードコアのなかでも、BIG BOYS(ビック・ボーイズ)やDICKS(ディックス)、MDC(ミリオンズ・オブ・デッド・コップ)などのバンドと一緒に活躍し、テキサス・シーンを代表するバンドのひとつとしても知られている。

 

アメリカ国内でも中部の田舎で保守的な土地柄として知られるテキサス。その保守への反動なのか、テキサス出身のバンドたちは、反体制的なアティテュードを掲げているバンドが多い。サウンドは、初期パンクをベースに、プラスアルファを加えたバンドが多い。ゴリゴリのハードコアはいないが、ユニークなアイデアにあふれたバンドたちが多く存在する。

 

MDCはハードコアパンクにカントリーを取り入れ、ビックボーイズはファンクのリズムを消化した。アメリカルーツミュージックのR&Bに初期パンクを折衷したディックスなど、どのバンドもいろいろな要素を取り入れ自由に実験的なサウンドを展開している。それがテキサス・シーンの特徴でもある。Really Red(リアリー・レッド)もその例にもれず、初期パンクから、ニューウェーヴを取り入れ変貌を遂げてきた。テキサスという保守的な土地柄の反動ゆえ、マイノリティーな立場でシリアスな怒りをモチベーションに掲げているバンドが多い。彼らも人種差別や飢餓、商業主義のミュージシャンへの批判など政治的なメッセージを掲げているが、どこか牧歌的なのどかさが漂っている。それがこのバンドの特徴でもあるのだ。

 

このアルバムは、79年のデビューEP、『Crowd Control/Corporate Settings』から、80年のEP『Modern Needs/White Lies』、81年のEP『Despise Moral Majority』、1stアルバム『Teaching You the Fear』、82年のEP『New Strings for Old Puppets』、84年の2nd『Rest in Pain』、96年にコンピレーション・アルバム『Rather See You Dead』にデモ曲を加えた2枚組CDの計44曲が収録されている。しかもALTERNATIVE TENTACLESからリリースされジェロ・ビアフラ自らマスタリングを担当している。

 

彼らはバリバリ響くノイズギターが印象的なパンク路線の初期から、金属的にヒステリックに響くポストパンク路線、感情が高揚していくパーカッシブなピアノとホーンが印象的なフリージャズ、プログレのようなサイケデリックなサウンドなど、パンクの制約を受けることなく、自由にいろいろなことを演っている。ポップでのどかな曲から、暗くドロドロした情念の曲、アグレッシヴで攻撃的な曲など、多重人格者を思わせるような多彩な感情の奥行がある。

 

サウンドの一貫性はあまり感じられないが、だからといって悪い作品ではない。自分たちの演りたい音楽を楽しんでいる姿勢が、高いクオリティーを保有している。アメリカン・ハードコア・シーン全体から見れば、異端だが素晴らしい作品であることに間違いはない。彼らが存在しなければ、Butthole Surfers(バッドフォールサファーズ)のサウンドも大きく変容していただろう。テキサスではそれほど影響力のあるバンドだったのだ。