Shai Hulud(シャイハルード)
『Just Can’t Hate Enough X 2 – Plus Other Hate Songs』

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Shai Hulud

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15年にヴァイナルのみで発表された8曲入りEP。4曲のカヴァーと多彩なゲストをボーカルに据えた4曲で構成された作品。今作ではボーカルがマットからマッティ・カロックに代わり、心機一転を図った作品といえるだろう。自分たちの影響を受けたミュージシャンや、現在の嗜好するサウンドを徹底的に見つめ直した。いわば再生をテーマに掲げたカヴァー集なのだ。

 

06年に発表したカヴァー集『ア・プロファウンド・オブ・マン』( A Profound Hatred of Man)では、NOFX、バッド・ブレインズ(BAD BRAINS)、バッド・レリジョン(Bad Religion)、ネガティヴ・アプローチ(NEGATIVE APPROACH)、メタリカ(Metallica)と、オールドスクール・ハードコアからスラッシュ・メタル、メロディック・ハードコアなど、彼らのルーツが垣間見れるカヴァーだった。

 

今回もハードコアからメロディックパンク、スラッシュメタル、クロスオーバーなど、パンクやハードコア、メタルなど特定のジャンルに焦点を絞っている。だが『ア・プロファウンド・オブ・マン』と比べると、今作ではエクセル以外は比較的最近活動しているバンドが多い。自らのルーツをカヴァーするというより、いろいろなバンドの異なるアイデアを、自らのサウンドに取り込むためのカヴァーといえる。自分たちの原点を見つめ直すカヴァーではなく、異なる視点からハードコアを学ぶためのカヴァーなのだ。

 

肝心の内容だが、1~4はオリジナルの曲で、5~8はカヴァー曲。1曲目の“Sincerely Hated”(センシリティー・ヘイテッド)から3曲目の“How Hates The Heart”(ハウ・ヘイツ・ザ・ハート)は新曲で、4曲目の“A Profound Hatred Of Man”(ア・プロファウンド・ヘイテッド・オブ・マン)は97年に発表された『Hearts Once Nourished With Hope & Compassion』(ハーツ・ワンス・ノーリッシュド・ウィズ・ホープ・コンパッション)からの再録。Further Seems Forever (ファーザ・シームス・フォエバー)のチャド・ネプチューンやComeback Kid (カムバック・キッド)のアンドリュー・ニューフェルドなど、多彩なゲストを招いて制作された曲だが、カヴァー曲を含め、2曲目以外はHate(憎しみ)という言葉が引用されている。自己嫌悪や相手に対する憎しみなど、多種多様な憎しみが表現されているのだ。そして5~8のカヴァー曲は、5曲目の“I Just Can’t Hate Enough”(アイ・ジャスト・キャント・ヘイト・イナフ)はカルフォルニアのオールド・ハードコア・バンド、 A Chorus Of Disapproval(ア・コーラス・オブ・ディサプルーヴ)のカヴァーで、6曲目の“Just Can’t Hate Enough”(ジャスト・キャント・ヘイト・イナフ)はニューヨークの極悪ハードコアと呼ばれたSheer Terror(シアー・テーラー)のカヴァー。7曲目の“Blaze Some Hate”(ブレイズ・サム・ヘイト)はスラッシュメタルとスケーターパンクをクロスオーバーさせたExcel(エクセル)のカヴァー。8曲目の“Hate, Myth, Muscle, Etiquette”(ヘイト、メス、マッスル、エチケット)はカナダのメロディック・パンクバンド、Propagandhi(プロパガンティー)のカヴァーだ。

 

今回も自分たちのサウンドスタイルを強調しつつも原曲の個性も残す、折衷スタイルのカヴァーだ。5曲目の“アイ・ジャスト・キャント・ヘイト・イナフ”はア・コーラス・オブ・ディサプルーヴのメロディーラインを残しつつも、シャイハルードの特徴である気合の入った叫び声を全面に出したカヴァーで、“ジャスト・キャント・ヘイト・イナフ”はシアー・テーラー特有の重くグルーヴィーなギターのリフを、スピーディーな激しさに変化させている。“ブレイズ・サム・ヘイト”はエクセルのリズム感とギターコードを残し、そこにシャイハールドの個性である激しさを加えたカヴァーだ。そして“ヘイト、メス、マッスル、エチケット”はプロガンバティーのスピード感とメロディーラインを重視したカヴァー。そこにシャイハルードらしい叫び声を加えた。どの曲も両者の個性が顕著に表れているのだ。

 

今回シャイハルードが、カヴァーと新曲、そして思いいれの強い旧曲の入り混じったこの作品を発表した理由は、自分たちがバンドを始めた動機を再確認するためだろう。だから自分たちがバンドを始めた動機であり、フラストレーションを発散する理由であり、バンドを続けているモチーベションの原因でもある<憎しみ>という感情を、追求したのだろう。そして多彩なゲストと一緒に曲を作ることによって、新しい手法を手に入れた。自分たちのサウンドを貫く変わらない自分であるためには、ハードコアの違った手法を取り入れることによって変わり続けていくことによって、成し遂げられる。新しく生まれ変わるために必要な作品だったのだ。