This Is Boston, Not L.A. (ディス・イズ・ボストン,ノット・L.A)

This Is Boston Not L.a.
Various Artists

Wicked Disc 1995-10-10
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82年に発表されたボストン・ハードコア・バンドを集めたコンピレーション。この作品を聴けばボストン・ハードコアがどんなシーンなのか、サウンド的な意味でも、アティーテュードの特徴も、おおよそ理解できる。ボストン・ハードコア・シーンを知るうえで外せない重要な作品だ。

 

当時このコンピレーション・アルバムを制作した理由は、ボストン・ハードコア・シーンのアイデンティティを全国に広めるためと、退廃的なイメージが強かったロサンゼルス・シーンと差別化を図るためだった。そのため『This is Boston NOT L.A.』(これぞボストン。ロザンゼルスではない)という過激なタイトルがつけられた。だがこのタイトルの意味はロサンゼルスのバンドたちにとっては侮辱して捉えられ、あとにストレートエッヂ思想やNegative FX(ネガティヴ・FX)などのボストンバードコアシーンを全否定したNOFXを生み出すほど、西海岸のバンドたちには評判の悪い作品となった。この作品を発表した結果、ボストンのハードコア・シーンのバンドたちは、ほかの地域のバントたちを受け入れない排他性を確立し、ガラパゴス的な進化を遂げていった。

 

ほかのシーンにはなにかと評判の悪い作品だが、サウンド的には優れている。アメリカン・ハードコアのなかでも5本の指に入る名作だ。ここに収録されているバンドは、JERRY’S KIDS(ジェリー・キッズ)、THE PROLETARIAT(ザ・プロレティアート)、 GROINOIDS(グロイノイドズ)、 THE F.U.’S(ザ・フューズ)、 GANG GRREEN(ギャング・グリーン)、 DECADENCE(デカダンス)、 THE FREEZE(ザ・フリーズ)など、すべてボストンのバンドたちだ。ボストンでも有名だったSSDecontrol(ソサエティー・システム・デコントロール)やDYS、Negative FX(ネガティヴ・FX)などのバンドたちは参加していない。とくにボストンシーンの中心的存在であったSSDecontrolは、参加のオファーがあったが、レーベルへの不信感があり、参加を見送ったそうだ。

 

全体を通して聴いてみると、メロディックギターを導入した初期パンクに影響を受けたサウンドのバンドと、性急で電源がショートしたような歪んだギターのノイジーなハードコア・サウンドを展開しているバンドの2タイプに分かれる。だがどのバンドも声量の限りを出し尽し早口でまくし立てるボーカルと、苛立ちと焦燥感に満ちた音楽衝動の部分では共通している。それがボストン・ハードコアの特徴なのだ。この一枚を聴くだけで、ボストン・ハードコア・シーンのサウンドの特徴が分かり、しかも退廃的でメロディーパートがあるLAハードコアシーンや、スピーディーでノイジーなサウンドのバンドが多かったワシントンDCシーンなど、地域ごとの音の違いも理解できるのだ。なおCD盤には、ボストンの上記6バンドが参加し、82年に発表されたEP『Unsafe at Any Speed EP (センセーフ・アット・エニィ・スピード・EP)』がボーナストラックとして収録されている。