CURSIVE(カーシヴ)
『Vitriola(ヴィティオーラ)』

VITRIOLA

ネブラスカ州オハマ出身のポスト・ハードコア・バンドの6年ぶりとなる8作目。05年以来、じつに13年ぶりにチェロ奏者が加わった。これは“The Ugly Organ (ジ・アグリー・オルガン)”以来の会心作ではないか。“The Ugly Organ (ジ・アグリーオルガン)”は、ポスト・ハードコアのサウンドフォーマットに、オルガンやチェロなどの音色を加え、デビット・リンチのマルホランド・ドライブのような50年代のノスタルジーな世界観を表現し、古き悪しき風習や不気味さといったおどろおどろしさに満ち溢れた作品だった。
 
古き因習の不気味さがあった“ジ・アグリーオルガン”と比べると、今作ではシュールレアリスム・ホラーのような神秘的で病んだ精神世界を追求している。オーロラのような幻想的でリヴァーヴするシンセの音。呪詛を鎮めるような不気味に響くチェロの音。心の傷を慰めるような繊細でナイーブなギターのメロディー。発狂した精神異常者のような効果音。そしてボーカル、ティム・ケイシャーの絶望と不安に満ちた悲痛な叫び声。そこには心が塞いでしまう鬱な感情と、発狂するような躁な感情を、目まぐるしく行き来する狂気と情緒不安定さがある。
 
情緒不安定さと狂気というカーシヴらしさの残しつつも、夢や幻想の非合理な精神世界の狂った美しさを加え、さらに進化させた。これは素晴らしい作品。