Bad Religion(バッドレリジョン)
『Age of Unreason(エイジ・オブ・アンリーズン)』

じつに6年ぶりとなる17作目。この作品を発表する前まで、2年に1作というペースでコンスタントにアルバムを発表し続けていたバッドレリジョンだが、今作を発表するまで6年もの歳月がかかった。これだけの年月がかかった理由には、長年連れ添ったグレッグ・ヘトソンの脱退や、モチベーションや体力の低下など、さまざまな要因が挙げられるだろう。当時黒髪で若々しかったGreg Graffin(グレッグ・グラフィン)も、いまでは白髪頭に老眼鏡と、初老の姿に変化している。

 

バッド・レリジョンといえば、速い、激しい、メロディックの3拍子そろったメロディック・ハードコアを確立したバンドである。初期のころから変わらずメロコアを貫いているバンドだが、今作でもそのサウンドは変わっていない。微妙な変化を挙げるのなら、ギターサウンドはよりヘヴィーに、スピードと勢いが増した部分か。メロディックなコーラスとボーカルは健在だ。

 

30年以上活動をしているベテラン・パンク・バンドの作品といえば、サウンドがマンネリ化し、日々の怒りや疑問などがなくなり、歌詞がいい加減な表現が多くなったバンドが多い。生活の糧のためだけにアルバムを発表しているのではないかと邪念で見てしまうケースも多々あるが、バッド・レリジョンの場合、社会問題を提示し、反権威主義を貫き、パンクスピリットにあふれた作品を発表し続けている。初老の容姿に変わっても、いまだ衰えることなく熱意と、高いモチベーションにあふれているのだ。

 

『不寛容な時代』と名付けられた今作では、トランプ政権の問題、中流階級の減少、アメリカンフットボールのコリン・キャパニック選手による人種差別、格差など、全世界が抱える問題がテーマになっている。この作品を作る前、グレッグ・グラフィンはフランス革命、アメリカ革命、南北戦争などの歴史書物を多く読んだという。そこで導き出された答えとは、知性と道徳のない独裁者による民主主義の消滅や、第三次世界大戦が起こる可能性への危機感。

 

“Old Regime(旧体制)”では、<新しい貴族主義は旧体制のような匂いがする、民主主義の基準から免除を要求>と歌い、“The Approach(ジ・アプローチ)”では<道徳と知能の空白、哲学は消滅しかけていて、革命なんてあり得ない>と歌っている。この作品を通じして彼らが訴えているのは、既得権益が要求する所得税や法人税などの減税が、貧困層を増大させ、怨嗟の感情を生み出し、民主主義が消滅し、やがて戦争に発展してくプロセス。そこにはトランプ政権に対する怒りもさることながら、危機感も漂っている。このままでは怨嗟の感情が世界中に蔓延し、戦争に向かっていると警告しているのだ。

 

現在日本では年収300万円以下が4割を占め、次に起こる金融危機では、300万円以下が6割に達するといわれている。もはや中間層はなくなり貧困層と富裕層に2分する世の中になるといわれている。まさに昭和恐慌が起こる前夜の、3大財閥が日本の富の半分を占めたときと似た状況に向かっている。グレッグ・グラフィンが言うように現在の状況を理解し、世界レベルでの庶民階級層の団結、富裕層への増税といったことが必要なのだ。彼らの名曲“American Jesus (アメリカン・ジーザス)”と似て未来を暗示した作品なのだ。