THE GET UP KIDS(ザ・ゲット・アップ・キッズ)
『Problems(プロブレム)』

じつに8年ぶりとなる6作目。昨年発表されたEP『Kicker(キッカー)』で、原点回帰なサウンドを展開した。今作もエモの荒々しいギターロックを中心としたサウンドを展開している。

 

『キッカー』でも書いたが、GET UP KIDS(ゲット・アップ・キッズ)といえば、いままでファンの期待に応えるという意識が希薄なバンドであった。それよりも自分たちの演りたい音楽をやる、前作と同じような作品は作らないという意識が強いバンドであった。それが『キッカー』で、ファンの期待に応えようとする意識に変わった。

 

今作ではキーボード奏者のジェイムス・ドゥウィーズ(James Dewees)の個性が際立っている。エモの荒々しいギターサウンドをベースにしながらも、幻想的なアンビエントなシンセや、きらきら光る雫のような効果音などをおりまぜ、緑に囲まれた大自然を想起させる癒しなサウンドを展開している。けっしてファンに迎合した作品ではなく、ところどころに新しい実験的な要素を取り入れている。

 

ここにはかつての物事がうまく進まないゆえの悔しさのにじんだ哀愁や、青春の叫びのような、エモ特有の感情はない。穏やかで優しさや慈しみにあふれたバラードが多いのが印象的だ。歌詞はセンチメンタルで大人びた内容が目立つ。例えば“Brakelines(ブレーキライン)”では、<年をとることについて、それほど絶望的ではない>と歌い、そこには苦難や障害が人生に立ちはだかっても、すでに過去に経験した出来事ばかりだからと、冷静な感情で対処している姿勢がうかがえる。20代特有の若さゆえのエモーショナルな熱さこそ失ったが、40代前半が感じる落ち着きとやさしさに満ちた感情に変わったのだ。気持ちを偽ることなく、建前で語ることもなく、等身大の自分自身のリアルな感情について歌っている部分では、彼らは変わっていないといえるだろう。

 

年相応に成長した彼らは、数珠玉のように磨かれ美しく光り輝いている。大人になった彼らの魅力が存分に出た作品なのだ。