BILLYBIO(ビリーバイオ)
『 Freedom’s Never Free(フリーダムズ・ネバー・フリー)』

Biohazard(バイオハザード)のボーカルであるBilly Graziadei(ビリー・グラジアデイ)によるソロ・プロジェクト。18年11月に発売されたデビュー作。バイオハザードといえば、ニューヨーク・ハードコア・クロスオーバー・シーンの重鎮として知られるバンドだ。ハードコアとメタルのクロスオーバーといえば、Suicidal Tendencies(スイサイダル・テンデンシーズ)やD.R.Iに代表されるように、ハードコアのスピード感にテクニカルなメタルのギターを合わせた折衷スタイルのバンドが多い。

 

ニューヨークではAgnostic Front(アグノスティック・フロント)やクロスオーバー・スラッシュとして知られたCro Mags(クロマグス)など、独特なスタイルのクロスオーバー・バンドが数多く存在した。バイオハザードはそのなかでも、Helmet(ヘルメット)などのグルーヴィーでスローテンポなメタルに、ヒップホップな歌いまわしと、ハードコア・エッセンスを加た独特なサウンドを展開していた。ヘルメット以降のメタル、ハードコア、ヒップホップをごちゃまぜにしたサウンドは、唯一無二のオリジナルティーを放っていた。

 

デビュー作であるBiohazard(バイオハザード)で確立したサウンドスタイルを、かたくなに継続し、そこにプラスアルファを加えブラッシュアップしてきた。バイオハザードとは、アルバムを発表するごとにメタル度とヒップホップ度が増し、より強硬でヘヴィーなサウンドに深化したバンドなのだ。

 

そしてバイオハザードから7年ぶり、ソロ名義ではデビュー作となる今作では、ニューヨーク・ハードコアの歴史を、体系的に捉えたサウンドを展開している。ひとつのサウンドスタイルに固執していたバイオハザードと比べると、ソロプロジェクトでは、色々なスタイルのサウンドにチャレンジしている。重いリフのギターと重厚なOiコーラスを中心に、スピーディーなハードコアから、初期パンクな曲、Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)のような怒声が特徴的な曲、アグノスティック・フロントのようなギターソロが特徴のハードコア、戦争の悲惨さを想起させるインストゥルメンタルな曲など、パンク・ハードコアというサウンド・スタイルにこそこだわりがあるが、ニューヨーク・ハードコアの歴史を体系的に網羅したような内容なのだ。

 

今回ソロ名義で発表した理由は、闘争的で主張の強いハードコアを演りたかったからではないか。歌詞には“Disaffected World(不満に満ちた世界)”や“Untruth(真実でない)”といった歌詞が目立つ。そこには、多様性を認めずアメリカ社会が分断され不寛容なトランプ政権への非難や、富裕層が富を搾取したことによって世間に憎しみや怒りが蔓延していることへの愁いがある。元来人間とは良心が持った生き物で、お互いがいがみ合うよりも、手を取り合い助け合っていく社会が理想的だと訴えかけている。憎しみよりも助け合う心こそ大切だと、理想を掲げているのだ。

 

ビルが影響を受けた音楽的なルーツに原点回帰したというよりも、自らが育った出自であるニューヨーク・ハードコア・シーンに立ち返った。自らのアティテュードと精神性を再確認するという意味で原点立ち返った作品なのだ。失われた感情を取り戻した、精神的な意味で充実した作品なのだ。