Cursive(カーシヴ)
Get Fixed(ゲット・フィックスド)

ネブラスカ州オハマ出身のポストハードコアバンドの9作目。1年ぶりとなる作品。前々作から前作までの発表が6年かかり、今作では発表までに1年の歳しか要していない。その理由は、おそらくチェロ奏者のMegan Seibe(メグアン・シーベ)が加わり、表現意欲にあふれた充実期に入ったからだろう。今作も前作の延長上にあるサウンドで、シュールレアリスム・ホラーのような神秘的で病んだ精神世界を追求している。

 

フリージャズのような劇的なホーンの音色が、当然不幸が襲い掛かったような気持ちにさせる“Horror is a Human Being(ホラー・イズ・ア・ヒューマン・ビーイング)”。おどろおどろしく愁いに満ちた悲しげなギターな印象的な“marigolds(マリゴールドズ)”。情緒不安定で発狂したような音色のキーボードが印象的な“Look(ルック)”。クラッシクのように上品で繊細な音色ながら洞穴に一人こもっているような暗い孤独を感じさせる“What’s Gotten into You?(ワッツ・ガッテン・イントゥ・ユー?)”と、今作でもノスタルジックでサイケデリックで奇異な音色を入れながら、独特なサウンドを追求している。

 

今作ではアメリカ国内にはびこっている怒りと絶望がテーマ。ボーカルのTim Kasher(ティム・カッシャー)は、全世界で蔓延している悲観的でどん欲なナショナリズムに触発された制作したそうだ。日本で例えるなら、地球温暖化を顧みず、日本企業の利益のためだけに火力発電を途上国に推進する身勝手な政策。そんな自己中心的な考えが全世界の国家間のなかで蔓延しているのだ。そんな自己中心的な考えの国家に対して、市民レベルでの感情論が展開されている。そこには怒りというよりも、強権から振りかざされる巨大な暴力に対する、メランコリックな精神を不安にさせる憂鬱な感情が支配している。まるで世界の終わりを予見しているかのように。

 

今作も独特な世界観と前衛的なサウンドを追求している。情緒不安精査と狂気を感じる素晴らしき作品なのだ。