Downcast(ダウンキャスト)
Tell Me I Am Alive(テル・ミー・アイ・アム・アライブ)』

スクリーモの先駆者で、ストレートエッジに尋常でないこだわりをもっている、Downcast(ダウンキャスト)の25年ぶりとなる3作目。Ebullition Records(エボリューション・レコーズ)の設立のメンバーの一人でもあるKevin Doss(ケヴィン・ドス)を中心に、レーベル・ナンバー1をもらい、リリースしたバンドだ。エボリューション・レコーズからリリースしたOrchid(オーキッド)やjulia(ジュリア)などのバンドは、スクリームというジャンルが確立する遠因にかかわったバンドで、ストレートエッジやアナーコパンクなど、さまざまなスタイルのアンダーグランドなハードコア・バンドをリリースしたレーベルとしても知られている。

 

そのサウンドは当時まだ、スクリーモの発展途上にある原始的なサウンドで、90年に発表されたEPとLP の2作の作品は、エモーショナル・ハードコアとHelmet(ヘルメット)のようなメタルの、中間にあるサウンドだった。このサウンド・スタイルから進化したのが、Heroin(ヘロイン)やOrchid(オーキッド)などのバンドで、00年代になると、極左ではConverge(コンヴァ―ジ)などのバンドがカオティック・コアと呼ばれた。また極右ではThe Used(ザ・ユーズド)、Thrice(スライス)、Finch(フィンチ)、Thursday(サーズディ)、カナダではGRADE(グレイド)や、Alexisonfire(アレックス・オン・ファイヤ)、Silverstein(シルバー・スタイン)などのバンドによって、スクリーモと呼ばれるようになった。

 

今作では過去に制作され一度も収録されることがなかった4曲と、新たに制作された6曲を合わせた、計10曲を収録。いままで荒々しいハードコアだったサウンドからメロディックなサウンドに変わった。例えるならEcho & the Bunnymen(エコー&ザ・バニーメン)やThursday(サーズディ)などの暗く透明感のあるメロディーに、Rage Against the Machine (レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)のようなヘヴィネスさを合わせたサウンド。ボーカルは透明感のある歌声に変わり、ガラス細工のようにデリケートで神経質な美しいメロディーには、悲しみと憂いに満ちている。そこにボーカルの絶叫が加わり、不条理や嘆きと憤りといった感情を喚起させる。

 

歌詞はアメリカの社会問題がテーマになっている。“Nature of a Gun(ナチュラル・オブ・ア・ガン)”では、安価で誰もが手軽に銃を手に居られる社会をつくり大儲けした大手銃メーカーのCEOの批判。“Four Arrows(フォー・アロウズ)”では、カルフォルニアの神話が州の暴力への始まりとなり、悪しき風潮が継承され現在につながっていく過程について歌っている。“Mayday(メイデイ)”では、緊急信号や助けを求めているという意味で、ホームレスキャンプなど、貧困問題を取り上げている。The Response from White America “ホワイト・アメリカからの応答”では、白人の子どもたちに黒人に対して暴力や差別をしような訴えている。人種差別から貧困問題、銃社会への批判など、シリアスな社会問題について歌っている。

 

『私が生きていると知ってほしい』というアルバム・タイトルには、若い世代が不確実な情報をもとに、黒人に対して憎しみに満ちた脅迫的な行動に出ないよう訴えかけている。人種差別や貧困や暴力がなく、みんなが笑って暮らせる世の中を創ろうというメッセージが込められているのだ。

 

アマゾンに商品を提供することのないアンチ・コンスムレストとDIY精神を貫く気丈なレーベルで、ポリティカル・コレクトネスというパンク・スピリットの信念を貫くバンド。25年ぶりの新作も、魂を揺さぶる熱い作品なのだ。

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