元Swans(スワンズ)の打楽器奏者、トール･ハリスのデビュー作。スローテンポなサウンドでドローン･ノイズ･インダストリアルを中心に、ダウナーでクレパスののような心に割いた深い溝を表現していたスワンズと比べると、ここではポップなサウンドを展開している。
そのサウンドはアシッドなトリップ感のあるドゥーム･アンビエント･ダブ。トリップ感のあるダブだけあって、幻覚世界をさまよっているような酩酊としたサウンドだ。鐘の音や鳥のさえずり、赤ちゃんの泣き声が酩酊状態で聴いているように極限まで音を歪めた。退屈で平凡なピアノの音に、トリップした音を加えた“Return of the Ass Tiger (リターン･オブ･ザ･アス･タイガー)”、ノイズをゆがませた“Big Dan (ビック･ダン)”。尺八の虚しい響きのような“Fly on the Wall (フライ･オン･ザ･ウォール)”など、日光を遮る鬱蒼とした森の中をさまよい、不思議の国のアリスのような幻覚世界がそこに広がっている。コンクリートに囲まれた都会の喧噪を逃避した、小鳥のさえずり笑い声あふれる深い森の癒しと幻覚に満ちた不思議な世界。トリップ感に満ちた音の快楽。チルアウトな至福感がすばらしい作品なのだ。