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『Longhena(ロンゲーナ)』

アンダーグランドなメタル/ハードコア系のバンドを紹介しているサイトDECIBELで、Grind/Powerviolence(グラインドコア/パワー・バイオレンス) Albums of 2010-2019の第1位に選ばれた。2014年に発表された日米混同のグラインド・コア・バンドによる3作目となる作品。

 

パワーバイオレンスといえば、グラインド・コアからハードコアよりに発展したジャンルで、反戦や反核などのディスチャージやアナーコパンクからの影響が強く、1分台の曲と、ファストなサウンドのバンドのことを指している。大抵のバンドがモノクロ写真で、戦争の写真を掲載し、残忍な要素が強い。だが彼らには、反戦や反核などのディスチャージやアナーコパンクからの要素が一切ない。特殊なスタイルのパワーバイオレンスなのだ。

 

バンドメンバーはのちに伝説のグラインドバンドと呼ばれたDISCORDANCE AXIS(ディスコダンス・アクシス)や、現在No One Knows What The Dead Think (ノー・ワン・ノウズ・ワット・ザ・デッド・シンク)で活躍しているJon Chang (ジョン・チャング)と、Mortalized(モータライズド.)などのバンドで活躍したグラインドコア界で有名な日本人のギタリストTakafumi Matsubara(タカフミ・マツバラ)を中心に結成された。日本文化からの影響が強く、般若などの日本伝統文化や、SFの女の子や日本のアニメなどの要素を取り入れた、日本アニメのサイバーパンクと日本伝統芸能である能を、グラインドコアに合わせたサウンドなのだ。

 

ヒステリックで甲高いボーカルの絶叫と、カタカタなる異音のような連射音のドラムが印象的だった1作目。お経のような歌い回しで絶叫するボーカルと、より激しく、よりファストに、よりノイジーに進化した2作目。そして『Longhena(ロンゲーナ)』では、Origi(オリジ)のテクニカル・デスメタルを、よりファストなパワーバイオレンスに凝縮した。テクニカルなギターが目を引くサウンド。だがOrigi(オリジ)のようなデス・メタル特有の凶暴さはない。バイオリンの叙情性やスペイシーなギターからは、SF映画のような、壮大な宇宙のような神秘さを感じる。ものすごい速さのストップ&ゴーや、軽い音で細部のディティールにこだわったテクニカルなギターは、まるで人型機動兵器のプラモデル制作のような、オタクっぽいこだわりの作り込みだ。

 

死体や反戦など、サウンド的にもマンネリ化気味であったパワーバイオレンス界に、新しい価値観を提示した作品。それがDECIBELで1位に選ばれた理由なのだろう。シリアスさのまったくないプラスティックな作り込みがすばらしい。パワーバイオレンス界で唯一無二な個性を放つ作品なのだ。