DESCENDENTS(ディッセンデンツ)
『9TH & WALNUT(9TH &ウォルナット)』

78年から活動を始め、Dickies(ディッキーズ)やAgent Orange(エージェント・オレンジ)と並び、西海岸のメロディック・パンクの創始者のひとつといわれるDescendents(ディッセンデンツ)の8作目。

 

今作はボーカルのMiloが加入以前に書かれた未発表曲を、78年当時のメンバーであるBill Stevenson(ビル・スティブンソン)(Dr)、Frank Navetta(フランク・ナヴェッタ)(Gt)、Tony Lombardo(トニー・ロンバルド)(Ba)の3人と、ボーカルのMilo Aukerman(ミロ・オーカーマン)を加えた4人でレコーディング(一部楽曲は2020年レコーディング)した作品。過去にFrank Navetta(フランク・ナヴェッタ)がボーカルを担当していた1st EP収録の“Ride the Wild(ライド・ザ・ワイルド)”と“It’s A Hectic World(イッツ・ア・ヘクティック・ワールド)”の2曲を今回Milo Aukerman(ミロ・オーカーマン)がボーカルを執った新録バージョンも収録。デイヴ・クラーク・ファイヴのカヴァー「Glad All Over」も収録。デビュー作『Milo Goes To College』以前の初々しいDESCENDENTS(ディッセンデンツ)が、ここにある。

 

77年から80年に作られた曲だけあって、そのサウンドは、Ramones(ラモーンズ)直系のシンプルで荒々しいパンクな曲が多い。初々しい初期衝動にあふれ、スピーディーに簡潔に終わっていく。荒々しくもメロディックなギター。独特のスピード感で勢いよく前へ倒れかかるベース。そして憂いと苛立ちを含んだボーカル。彼ららしい個性はこの時点で確立されている。

 

そしてなによりDescendents(ディッセンデンツ)の最大の魅力といえば、反抗やコンプレックスやうまくいかないことへの苛立ち、失恋の悲しみや傷心などの、リアルな思春期の心情を歌った歌詞にある。

 

今作では、ごく初期の作品とだけあって、プリミティブな衝動にまかせた歌詞の内容が多い。“Crepe Suzette(クレープシュゼット)”では、<チャンスをください。私はあなたを(の心を)撃ちます>と歌い、“You Make Me Sick(あなたにはうんざり)”ではタイトル通り、嫌いな理由を語り、“Lullaby(子守歌)”では、<みんなあなたがヤリマンであることを知っている>と、だれもが高校生のときに一度は通るような、好きだった女性に失望したときに感じる、怒りや幻滅などを率直な言葉で歌っている。

 

好きだった女の子がじつはヤリマンだったとか、身近でだれもが経験するような失恋感覚だが、トレンディードラマでは決して語られることがなく、だれも歌詞にすることがなかった内容だ。そんな庶民感覚で始めて歌ったのが、DESCENDENTS(ディッセンデンツ)なのだ。その失恋への独特な共有感覚こそが、いまだに根深い人気がある理由なのだろう。

 

ひさびさに忘れていた甘酸っぱい失恋感覚がよみがえってきた。そういう感覚を取り戻せただけでも、すごく幸せな気分になった。この初々しい初期衝動にあふれた作品は、個人的にはかなり好きだ。