Hammered Hulls(ハマード ハルズ)
『Careening (カリーニング)』

80年代にThe Faith(ザ・フェイス)やIgnition(イグニッション)などの DCハードコアのバンドで活躍したAlec MacKaye(アレック・マッケイ)により結成された新バンドのEPに次ぐデビュー作。兄にしてDCハードコアのレジェンドであるIan MacKaye(イアン・マッケイ)によりプロデュースされ、ディコードレコーズからのデビューアルバム。

前EPは、Dag Nasty(ダク ナスティ―)やイギリスのLeatherface (レザーフェイス)を彷彿とさせる湿り気のあるメロディックパンクで、哀愁に満ちた情緒あふれたサウンドを展開していた。今作ではFugazi(フガジ)やBeefeater(ビーフイーター)のような、ファンクやジャズをパンクに取り込んだギターサウンドを展開している。

じつにDischord Records(ディスコード・レコーズ)らしいサウンドを展開していて、曲の構成が建物の建築のように、きっちりと計算され構築された真面目さが漂っている。軽快なメロディーから速弾きへと変化していく緊張感の孕んだギターサウンドに、即興的なアレンジに臨機応変に対応していく変幻自在のリズムセッション。

そこには若かりし頃のような苛立ちやいきり立った感情はなく、酸いも甘いも経験した円熟味特有の開き直りにも似た健やか風が吹いていて、音楽演奏を純粋に楽しんでいる姿がある。

ここにはパンクやハードコア特有のノイジーなうるささや激しさはない。感情の制御が効いた知的で穏やかなメロディーの大人のパンク・ロックだ。

会社での定年を終えた中年が新しいことにチャレンジするような、そんな感情が漂っている。これもまた枯れた円熟味とはまた違う、大人のパンク・ロックなのだ。