Terror(テラー)
『Pain Into Power(ペイン・イントゥ・パワー)』

ロスアンゼルス出身のベテラン・ハードコア・バンドの8作目。Terror(テラー)といえば、矢継ぎ早に捲し立てる怒声のボーカル、多彩なアレンジのギターのリフ、突如スローダウンするビートダウン・ハードコアのOiのコーラス。気合と情熱と熱意に満ちた清々しいサウンド。ハードコアのカッコいい部分だけを凝縮し、メタル色が全くないTerror(テラー)ならではのオリジナルティーあふれるサウンドに仕立てた。そのサウンドはオールドスクール・ハードコアの最先端の進化系といえる。

今作でもTerror(テラー)のハードコアスタイルに変わりはない。だが前作と比べると、より重くブルータルに深化している。スピーディーなサウンドだが、ギターは重くヘヴィー。デス声と叫び声とのシンガロング、曲が急にスローダウンする展開、ブラストビートなどを織り交ぜながら、ずっしりと重いヘヴィーな言葉を捲し立てる。

今回重くヘヴィーなサウンドに変化した理由は、世界がネガティヴで醜い場所であると感じた心理状態がアルバム全体に反映された結果だからだという。アルバム制作に入った時期はちょうどコロナのパンデミック状態で、ロックダウンしており、失業者が増え、人種間の対立が高まっていた時期で、街中怒りと憎しみにあふれていたという。

そんな憎しみに満ちあふれていた時期だからこそ、自分たちの信念を貫く姿勢を強く感じたのだ。たとえば“Unashamed(恥知らず)”では世間に笑われ恥ずかしい想いをしても信念を貫く大切さを歌い、“Boundless Contemp(無言の軽蔑)”では、人種差別主義者への怒りと軽蔑が歌われている。“On the Verge of Violence(暴力寸前)”では、ウクライナ戦争や第三次世界大戦が近いといわれている昨今、戦争の悲惨さや痛み、人種間における対立など、お互いを憎しみ合い、人類が破壊されることへの警告、平和の大切さを説いている。そして“The Hardest Truth(最も難しい真実)”では、災害のために人種間で憎しみ合う行為のめに、自分自身がゆがみ腐敗していっている事実に、目を覚ませと訴えかけている。

そこにはまさにタイトルである『Pain Into Power(痛みを力に変える)』という、怒りや憎しみという状況から、誰もがお高いを尊重合う未来へ向けて世の中を変えていくという、逆境を力に変えて生きるという意味が込められているのだ。

まさに信念がブレない初志貫徹したハードコア。そこにはハードコアの信念と熱さと戦いと芯の硬さが貫かれている。逆境に立ち向かっていく力にあふれた素晴らしい作品なのだ。