香港出身のポストハードコア・バンドの2015年に発表された2005年から2010年にかけて発表された作品をすべて収録したコンプリート盤。
インストゥルメンタルとポスト・ハードコアをうまくブレンドし、センチメンタルなサウンドが特徴的。傷口をなでるような繊細でメランコリックなギター、病んだ心を表現したようなテクニカルでトリッキーなリフ、エモーショナル・ハードコアのようにけっして激情になることのなくどこか諦観に満ちたヴォーカル。インストゥルメンタル・ギターの軽やかで優しいメロディーが心の傷を癒してくれるサウンド。
「世界は衝突した」「しがみつくのは負けだ」「人はかつて憎んでいたものになる」「私の中国のロマンス」「誰にも聞かなければ言葉は意味をなさない」などの曲のタイトルからは、中国への幻想、デストピアを受け入れるあきらめなど、自由が奪われる日常へのもの悲しい感情にあふれている。
1980年代、バブル期の日本と同じくアジアのなかで栄華を誇っていた香港。その香港が崩壊していく悲しみを、メランコリックで透明な美しさで閉じ込めた。まるで水底に沈んだ都市を地上から俯瞰し、無垢なる楽園の手付かずの姿を見ているような悲しさがそこにはある。「平家物語」のように栄枯盛衰を表現した素晴らしい作品。