AMERICAN HARDCOREアメリカン・ハードコアについて(総集編)

ニューヨーク


ニューヨーク・ハードコア・シーンは、Tony Retteman(トニー・レットマン)が著書『NYHC:New York Hardcore 1980-1990(ニューヨークハードコア 1980-1990』と、ドキュメンタリー映画『New York Hardcore Chronicles Film(ニューヨーク・ハードコア・クロニクルズ・フィルム)』で詳しく紹介している。Bad Brains(バッド・ブレインズ)がワシントンDCからニューヨークへ拠点を移し、そのスピーディーで激しいサウンドが、価値観を180度変え、衝撃を与えたシーンとして知られている。メタルとハードコアの折衷スタイルであるクロスオーバー・スラッシュ・シーンから、中産階級の若者たちによって創られたベジタリアンのストレートエッジであるユースクルーシーン、ハードコアという激しさを保持しながらも、階級や人種、思想を問わず、一緒くたになって、盛り上がった多様性に富んだシーンだった。詳しい内容は、 New York Hardcoreニューヨークハードコア・シーンについて(1980-1990)と、New York Hardcoreニューヨークハードコア・シーンについて (その2)で紹介しているので、こちらの記事を読んでほしい。

 

ワシントンDC


ワシントンDC・ハードコア・シーンは、ドキュメンタリー映画『SALAD DAYS:A Decade Of Punk In Washington,DC(1980-1990)』(サラダ・デイズ:ア・デケイド・オブ・パンク・イン・ワシントンDC(1980-1990))で詳しく紹介している。Bad Brains(バッド・ブレインズ)に影響を受けたMINOR THREAT(マイナー・スレット)を中心に、勃興したシーンだ。とくにMINOR THREAT(マイナー・スレット)のフロントマンである Ian MacKaye(イアン・マッケイ)が創設したレーベル、「Dischord Records(ディスコードレコーズ)」からDCのハードコア・バンドたちをリリースしていく。詳しい内容は、Washington,DC HardcoreワシントンDCハードコア・シーンについて(1980-1990)で紹介しているので、こちらの記事を読んでほしい。

 

ニュージャージー


ニュージャージーのハードコア・シーンはMisfits(ミスフィッツ)以外、ほとんど知られていないローカルなシーンだった。ほかにもハードコア/パンクのAdrenalin O.D.などが活動していた。ニュージャージーは、ハードコアの2大聖地であるニューヨークとワシントンDCに挟まれ、Agnostic Front(アグノスティック・フロント)やCro-Mags(クロマグス)などのニューヨーク・ハードコアと、Bad Brains(バッド・ブレインズ)やMinor Threat(マイナースレット)などのDCハードコアの両方から影響を受け、発展したシーンだ。

1990年代になると、ビートダウン・ハードコアの創始者Bulldoze(ブルドーズ)とFury of Five(フューリー・オブ・ファイブ)、Shattered Realm(シャッタード・レルム)、マスコアのThe Dillinger Escape Plan(デリンジャー・エスケープ・プラン)、ラップコアのE.Town Concrete(E.タウン・コンクリート)とNJ Bloodline(NJ ブラッドライン)、メタリック・ハードコアのRedline(レッドライン)など、ニュースクール・ハードコアの一大産地となる。どのバンドも音楽ルーツが異なる、オリジナルティに富んだバンドたちを生み出していく。7大聖地に匹敵する、クオリティが高いシーンへと成長を遂げていく。

 

Misfits(ミスフィッツ)


出典:Discogs
Misfits(ミスフィッツ)は、1977年から1983年のわずか6年しか活動していなかったホラーパンクの創始者。いかついマッチョな肉体で、デビロックといわれるヘアースタイルに、顔を真っ白に塗ったホラーメイクで、強烈な個性を放っていた。活動期間が短く、当時としては有名なバンドではなかったが、Metallica(メタリカ)やGuns N’ Roses(ガンズ&ローゼス)、Marilyn Manson(マリリン・マンソン)、Green Day(グリーン・ディ)、NOFX、AFI、Avenged Sevenfold(セヴンスフォールド)、My Chemical Romanc(マイ・ケミカル・ロマンス)などの後世のメジャー・バンドたちに多大な影響を与えたことで知られている。アメリカン・ハードコアを代表するバンドの一つで、まさに伝説のバンド。

 

ボストン


ボストン・ハードコア・シーンは、ドキュメンタリー映画『xxx ALL AGES xxx The Boston Hardcore Film』で詳しく紹介している。MINOR THREAT(マイナー・スレット)のストレーエッジ思想に影響を受けたSS Decontrol(ソサエティー・システム・デコントロール)が、暴力で酒とドラッグまみれの前世代のバンドたちを排除していく話から始まる。最後はメタル化してシーンは終焉する。詳しい内容は、Boston Hardcore ボストン・ハードコア・シーンについて (1981-1984)で紹介しているので、こちらの記事を読んでほしい。

 

フィラデルフィア


ペンシルベニア州フィラデルフィアのハードコア・シーンは、1983年に発売されたコンピレーション『Philly Hardcore Compilation – Get Off My Back (We’re Doing It Ourselves)』に集約されている。映画「ロッキー」や「ブロード通りのならず者」で有名な都市で、全米で最も人種的な階級がある街として知られている。フィラデルフィアのバンドたちには、貧困と薬物依存という未来に希望が持てない絶望的な悲惨な状況が、パンクの根底にある。フィラデルフィアを代表するバンドはYDIとF.O.DことFlag of Democracy。ほかにも自称仏教徒で白装束を着てステージ上でロウソクを燃やしていたRuin、McRad、Pagan Babies、Franklin、Policy of 3、Fracture、Kill the Man Who Questions、RAMBOなどのバンドが活動していた。

だが2000年代に入りShattered Realm(シャッタード・レルム)の4代目ヴォーカルのJoe Hardcore(ジョー・ハードコア)が立ち上げた世界的権威のハードコアのフェスティバル「This Is Hardcore」のおかげで、世界的に有名になる。近年では、人種やマイノリティーへの差別の反動なのか、近年では黒人のポリティカル・ハードコアのSOUL GLO(ソウル・グロウ)、性的マイノリティーのパンク・バンドのMannequin Pussy (マネキン・プッシー)など、多様性に富んだバンドを数多く輩出している。

YDI


黒人ボーカリスト Jackal(ジャッカル)がフロントマンのバンド。ボストン・ハードコアとDCハードコアを融合したサウンドで、ブチ切れボーカルが尋常でないテンションの高さで絶叫し、猛烈な勢いでたたみかけていく。“Black Dust (黒い塵)”や“Why Die ? (なぜ死ぬのか?)”、“Snarling Hate (唸る憎しみ)”、“My Hell (私の地獄)”といった曲の歌詞からは、自らが煩悶し、地獄のような内面の葛藤を歌っている。黒人の深い情念を歌ったバンドだ。

F.O.D(Flag of Democracy)


出典:THREATENING SOCIETY
F.O.D(Flag of Democracy)は、Agnostic Front(アグノスティック・フロント)やMinor Threat(マイナー・スレット)、SS Decontrol(SSデコントロール)の前座を担当していたバンドで、 Minor Threat(マイナー・スレット)をさらにスピーティーに仕立て、SS Decontrol(SSデコントロール)をさらにノイジーにパワーアップさせたハードコアが特徴。1990 年発表の3作目の『Down With People』では、ルーツの激しさを保持しつつも、ポップでメロディックなパンクを取り入れた作品だった。

 

バーモンド


バーモンドのハードコア・シーンは、全米で2番目に人口が少ない州だけあって、ローカルなシーンが存在している。バーモンドは、緑豊かな山々と湖畔、紅葉、雪景色などの美しい大自然が印象的で、同じ田舎でも異なる景観と様相をしめす土地柄。しかも州都モントピリアには、マクドナルドが1店舗のも存在しない。ローカルなシーンでも、7 SECONDS(セブン・セカンズ)やHüsker Dü(ハスカードゥ)、Misfits(ミスフィッツ)のように、その地域を代表するバンドが排出する例もある。だがバーモンド・ハードコア・シーンの場合、その地域を代表するバンドはいまのところ存在しない。だがバーモンド・ハードコアのバンドを集めたコンピレーションアルバム『Vermont Hardcore: Past & Present. Vol.1,2,3』と3枚発表するほど、ハードコアに対する熱気のある土地柄であることは間違いない。詳しい内容についてはVermont Hardcoreバーモンド・ハードコア・シーンについてで紹介しているので、こちらを読んでいただきたい。