ここでは日本で2016年に上映された映画『The Decline(ザ・デクライン)』を中心にロスアンゼルス・ハードコア・シーンについて紹介したい。
『ウェインズ・ワールド』を制作したペネロープ・スフィーリス監督による映画で、『ザ・デクライン』シリーズ3部作の第1弾。79年の12月から80年の5月にかけてロスアンゼルスで撮影されたロスアンゼルス・ハードコア・シーンのドキュメンタリーで、アメリカのハードコア・シーンを最初に紹介した映画だ。
ちなみに第2弾の『The Decline(ザ・デクライン):パート2メタルの時代』は、1988 年にかけてのロサンゼルス・ヘビーメタル・シーンを紹介した映画。
第3弾の『The Decline(ザ・デクライン):パート3』は、1990 年代後半のガター・パンクと呼ばれていた、10 代のホームレスの若者たちのライフスタイルを取材した映画だ。
映画『The Decline(ザ・デクライン)』は、Henry Rollins(ヘンリー・ロリンズ)加入前のBlack Flag(ブラック・フラッグ)や、Darby Crash(ダービー・クラッシュ)が自殺する直前のGerms(ジャームス)をはじめ、Circle Jerks(サークル・ジャークス)、Fear(フィアー)、X(エックス)など、LAパンクの伝説的バンドが登場している。ライヴシーンを中心に、バンドメンバーやパンクスへのインタビューを交えながら、当時のLos Angelesの狂気と怒りに満ちた熱気をそのまま記録した。
出典:Film Forum
『The Decline(ザ・デクライン)』では、ロスアンゼルスのパンク・シーンが、Germs(ジャームス)たちの新世代のバンドたちによって、ハードコア・シーンへと変貌していく過程を特集している。とくにいまとなっては他界したDarby Crash(ダービー・クラッシュ)のインタビューが掲載されており、貴重な内容となっている。
出典:映画com
ロスアンゼルスのハードコア・シーンは、アメリカで最初に発生してハードコア・シーンで、アメリカ各地で勃興したハードコア・シーンと比べると、派手でドラッグまみれの退廃的なバンドが多かった。『The Decline(ザ・デクライン)』では、ロスアンゼルス・ハードコア・シーンよりも、個々のバンドにスポットを当てた内容で、ドラッグと酒に溺れ退廃的なGerms(ジャームス)、アートパンクの要素が強かったX(エックス)、観客を個人攻撃し、性差別や同性愛差別を歌い、嫌われ者の要素が強かったFear(フィアー)など、当時のロスアンゼルスのバンドたちの個性が際立っている。個性的なバンドたちから、当時のロスアンゼルス・ハードコア・シーンを読み解く内容なのだ。とくにDarby Crash(ダービー・クラッシュ)の虚無感があふれたインタビューからは、新世代の若者によるカルチャーと新たな個性で、当時の閉塞したロスアンゼルスの空気を表現している。
ロスアンゼルス・ハードコアとは、ハードコアにこだわらず、実験的なバンドが多かった。ガレージ・パンクから、サーフパンク、ホラーパンクなどのサウンドを生み出し、退廃的な精神性から、アンチ・ロックスターなどの新たなアティテュードを作ったバンドもいた。大都市ニューヨークでもこれほど実験的なサウンドや様々な価値観を生みことが出来なかった。じつに多様性に富んだシーンなのだ。