アルバムレビュー

Great Falls(グレート・フォールズ)
『Objects Without Pain(オブジェクツ・ウィザウト・ペイン)』

シアトル出身のノイズ・ロック/ポスト・ハードコア・バンドの4作目。初期のころはSonic Youth(ソニック・ユースのノイズ・ロックに、スラッジ・メタルを融合したサウンドだったが、今作ではさらに深みを増し、よりヘヴィーなサウンドに深化した。

スラッジ・メタルの台風のように激しい突風のギターを中心に、絶望を叫ぶボーカルや暗闇と静けさのなかブンブンうねるベース、厳かで不吉なメロディー、情緒不安定なノイズ、反復するコードギターなどを融合し、激しさとの静と動のアップダウンを繰り返しながら、精神的苦痛と不安を紡いでいく。

激しくも終始ダウナーなサウンドで、そこには嘆きの壁のような深い悲しみと絶望と諦観がある。クレパスのような深い絶望の淵で鳴らされているダウナーな世界。それが今作の魅力なのだ。

Code Orange(コード・オレンジ)やJESUS PIECE(ジーザス・ピース)、Vein.fm(ヴェイン・fm)に次ぐ、ダウナー系ノイズ・ハードコアの最先端にいるサウンドで、最先端のへーヴィーロックでは、ベスト5入る、素晴らしい作品だ。

Night Verses(ナイト・ヴァース)
『Every Sound Has A Color In The Valley Of Night: Part One(エヴリ・サウンド・ハズ・ア・カラー・イン・ザ・ヴァリー・オブ・ナイト:パート1)』

カルフォルニア州フラートン出身のプログレッシブ・ロック・バンドの3作目。ボーカルのないインストルメンタルなバンドで、ギターエフェクトからコンガドラムにいたるまで多彩な楽器を使ったサウンドが特徴。

Night Verses(ナイト・ヴァース)の場合、ニュークリア―トリオのようなミニマムなインストルメンタルとは違い、より複雑で多彩なジャンルを取り込んだサウンドを展開している。ギターエフェクトから複雑なリズムセクション、宇宙をイメージさせるスペイシーなメロディー、シュケイザー、ヘヴィーなメタルのリフ、アフリカのコンガドラム、アラビアンなメロディー、地獄のヘヴィーな音から桃源郷のような穏やかなフレーズへと、くるくる変わっていく曲展開が特徴だ。

ダブルアルバムの第一弾である今作では、禍々しい神に祈りをささげているような呪術的なサイケデリックを中心としたインストルメンタルに変化した。インストルメンタルの形骸なギターに、幻想的で禍々しくも不吉なメロディー、呪術的なサイケディック、七色の光線を放ちながらマシンガンのような連射するドラム、穏やかで浮遊感のあるメロディーに、悪魔に祈りささげているような背徳感を感じつつも、どこか心の平穏を感じさせる、穏やかさと暴虐さに満ちあふれたアンビバレンスなサウンドスケープ。呪術的でスペイシーありながらも、心の平穏にあふれた不思議な音色の新しいスタイルのプログレッシブ・ロック。

Mars Volta(マーズ・ヴォルタ)を経てさらに進化したプログレッシブ・ロックだが、このバンドがさらに進化させたといっても過言ではない素晴らしい作品だ。

Blackbraid(ブラックブレード)
『Blackbraid Ⅱ(ブラックブレード2)』

ニューヨーク州アディロンダック出身のブラック・メタル・バンドの2作目。Blackbraid(ブラックブレード)とは、Jon Krieger(ジョン・クリガー)のソロ・プロジェクトである。Jon Krieger(ジョン・クリガー)は、別名でSgah’gahsowáh(スガガソワー)と名乗り、アメリカ先住民族であるモヒカン族の「魔女の鷹」を意味する名前だそうだ。

モヒカン族の名前を名乗っている通り、ブラックメタルに、ネイティブ・アメリカンのフルートやアコースティックなどの先住民の音楽を融合したサウンドで、大自然への敬意から怒りや嘆きなどの憤った感情を表現している。悪魔のコスプレやコープス・ペイントのメイクが特徴的なブラックメタルで、インディアンの装飾やペイントを纏い、Blackbraid(ブラックブレード)ならではの独特な個性を解き放っている。

前作『Blackbraid(ブラックブレード)』は、ローリング・ストーン誌の2022年のベスト・メタル・アルバムのリストに選ばれたほど、話題となった作品で、ネイティブ・アメリカンの歴史と自然を文学的に語った歌詞で、先住民族の虐殺について取り上げていた。

今作でも前作のサウンド路線と歌詞の世界観を踏襲し、さらに深化したサウンドを展開している。スウェーデンのブラックメタルのDissection(ディセクション)や、ノルウェイのブラックメタルのGorgoroth(ゴルゴロス)とSatyricon(サティリコン)とImmortal(イモータル)とMayhem(メイヘム)、スウェーデンのプログレッシブ・メタルのOpeth(オペス)、アメリカのブラックメタルのPanopticon(パノプティコン)とWolves in the Throne Room(ウルヴズ・イン・ザ・スローン・ルーム)、スウェーデンのエクストリームメタルのEnslaved(エンスレイブド)とBathoryl(バロリー)などのバンドに影響を受けたサウンドで、激しくも暗く落ち着きはらった迷走的なブラックメタルを展開している。

スローテンポからブラストビートへ変わっていくドラム、終始激しく絶望と憂愁に満ちあふれた音の壁のようなブラックメタルのコード・ギター、荒ぶる魂を鎮めるインディオのフルート、哀しみにあふれたアコースティック・ギター、ホラー映画のような呪詛と、怒りや嘆きにあふれたデス声、プログレのように1節ごとに変わっていく物語のような曲展開。そしてなりより音の壁のようなギターがすごい。音の洪水のように激しいギターながらも、その激しさにはどこから瞑想的な落ち着きと、荒ぶる魂を鎮める悠久な大自然への敬意が漂っている。インディアンの落ち着きはらった世界観と呪詛にあふれたブラックメタルの融合。そこにはBlackbraid(ブラックブレード)しかない個性があるのだ。

前作よりも曲全体がブラッシュアップされ、インディアンとブラッグメタルの融合という個性が際立った作品。個人的には、世界全体の評価から見てもメタルのベスト5に入ると思われる、素晴らしい個性を持った作品だ。