Vermont Hardcoreバーモンド・ハードコア・シーンについて

ここではGet Stoked! Recordsで発売されているコンピレーションアルバム『Vermont Hardcore: Past & Present. Vol.1,2,3』の3枚のアルバムを中心に、バーモンド・ハードコア・シーンについて紹介したい。

 

バーモンド州とは、全米で2番目に人口が少ない州で、カナダと国境を接した最北端に位置する。アメリカの田舎といえば、ウエスタンハットを被ったカウボーイが荒野を駆け抜けるイメージがあるが、バーモンド州の場合、緑豊かな山々と湖畔、紅葉、雪景色などの美しい大自然が印象的で、同じ田舎でも異なる景観と様相をしめす土地柄なのだ。しかも州都モントピリアには、マクドナルドが1店舗のも存在しない。

 
コンピレーションアルバムの説明文には、次のような内容が書かれている。<バーモンド・ハードコアはクールではない。ボストンやニューヨーク、ワシントンDC、シカゴ、ロスアンゼルスのように、大きなパンク/ハードコア・シーンはない。バーモンド州といえば、緑豊かな山々と、メイプルシロップの産地、牛の牧草地にあふれた土地で有名なので、パンク/ハードコアと結びつくことは想像できないだろう。だが実際には日々のプレッシャーに反発する情熱的で個性的な人であふれている。>

 

ボストンを代表するハードコア・バンドといえばSSD (ソサエティー・システム・でコントロール)、ニューヨークはAgnostic Front(アグノスティック・フロント)、ワシントンDCではBad Brains (バッド・ブレインズ)とMINOR THREAT (マイナー・スレット)など、その土地を代表するバンドがいる。だがいまのところバーモンド・ハードコア・シーンにはアイコン的なバンドはいない。

 

だが独自の進化を遂げ、ユニークなサウンドのバンドが多いのもバーモンド・ハードコアの特徴だ。シーンそのものが衰退してしまったほかの土地と比べると、バーモンド・ハードコアは後発な分、これから大きくなる可能性に秘めた活気に満ちている。オリジナルを曲解した独創性というのは、つねに地方から生まれてくるものだから。

 

まず始めに2011年に発表された『Vermont Hardcore: Past & Present』から紹介したい。このコンピ―レーションアルバムには、メタル色が一切ない原始的なパンク/ハードコア・バンドが30組収録されている。なかでも有名なのが、79年から活動しているThe Wards(ザ・ウォードズ)と、82年から活動しているNation Of Hate(ネイション・オブ・ヘイト)だ。

 

バーモンド州で一番最初にハードコア・バンドを始めたThe Wards(ザ・ウォードズ)は、初期パンクで攻撃的なサウンドを展開。金切り声のようなアグレッシヴなギターと挑発的なボーカルが特徴のバンドだ。『世界も俺たちも可愛くない』というアルバムのタイトルが示す通り、やさぐれてダーティーなアティテュードを持っている。ワイルドさが魅力のバンドなのだ。
The World Ain’t Pretty And Neither Are We

出典:Discogs

 

日本語で憎しみの国家というバンド名のNation Of Hate(ネイション・オブ・ヘイト)は、Discharge(ディスチャージ)系のハードコアにメロディーパートを取り入れた展開。4曲入りのデモひと作品しか発表していないが、なかでも“Fuck the Jedi(ファック・ザ・ジェダイ)”は、スターウォーズ嫌いが伝わってくる、お茶目な一面があるバンドなのだ。
Nation of Hate 1983 demo

出典:Discogs
 

Common Ground(コモン・グランド)は、95年から97年にかけて活動していたバンドで、96年に『Common Ground s/t(コモン・グランドs/t)』と、97年に『High School Talent Show(ハイ・スクール・タレント・ショー)』と2枚のEPを発表している。EMBRACE(エンブレイス)に影響を受けたエモーショナル・ハードコア・サウンド。全身全霊で歌う思春期の苦悩をまき散らすボーカルの繊細でセンシブな叫び声と、超高速で疾走していくドラムが魅力のバンドだ。
Common Ground Discography

出典:SOUNDCOLUD

 

98年から00年にかけて活動していたIn Reach(イン・リーチ)は、エモーショナル・ハードコアなサウンド。『Demo98(デモ98)』とシングル『.Seize The Day.(シーズ・ザ・ディ)』とスプリット1枚に、アルバム『Miles To Go(マイルズ・トゥ・ゴー)』の計4作品を発表している。Turning Point(ターニング・ポイント)に近いエモーショナル・ハードコアで、男くさい迫力ある衝動と勢いが魅力のバンドだ。
Miles To Go (Full Album) 1999

出典:Discogs

 

01年から活動しているMy Revenge! (マイ・リベンジ!)は、クロスオーバー・スラッシュで、バーモンド初のスケーター・パンク。メタル・ギターは控えめだが、Suicidal Tendencies(スイサイダル・テンデンシーズ)の影響が強いサウンド。クロスオーバーだけではなく、スローテンポなパンク/ハードコアの曲もあり、気合の入った男くささが魅力のバンドだ。
Less Plot, More Blood (Full Album) 2004

出典:Discogs

 

10年から活動しているMorning Comes Early(モーニング・カムズ・アーリー)は、New Found Glory (ニュー・ファウンド・グローリー)直系のイージーコア・バンド。シンガロングや野太いギターサウンド、変則的なリズムのリフなどは、イージーコアだが、The Starting Line(ザ・スターティング・ライン)のようなキラキラ・メロディーも取り入れ、大自然の美しさと激しさをイージーコアに見事に融合させている。
bandcampサイト

出典:Bandcamp

 

11年から活動している。Fractures(フラクチャズ)はノイズ・コアを中心に、ファスト・コアとエモーショナル・ハードコアとデスメタルが混ざった奇怪なサウンド。嘆きにも似た男くさいドスの効いたボーカル。ゴア・グラインドのような妄想とどろどろとした内容の歌詞。音が極限まで歪みきったノイズギター。すべてが不協和音で、不快さと激しさと絶望を感じさせるサウンドが魅力。VOl.1のなかで、かなりの個性を持ったバンドなのだ。
bandcampサイト

出典:Bandcamp

 

80年代から10年代まで、幅広い年代で活躍したバンドを収録したVol.1だが、すべてのバンドに共通しているのは、メタルと西海岸のバンドからの影響をまったく感じない部分。しかもエモーショナル・ハードコアのように、メロディーパートを導入した、男くさく全力で演奏するバンドたちが多い。武骨で不器用。技巧よりも衝動を大切に全力疾走していく姿勢。そこには冬の澄んだ空気のような張り詰めた緊張感と透明度があり、大自然の厳しさに似た素朴さと厳かさがある。武骨で不器用ながらも自分たちの想いを全力でぶつけた音。それがこの作品の魅力なのだ。
 

Vermont Hardcore: Past & Present

Get Stoked! Records