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SOUL GLO(ソウル・グロー)
『DisNigga (ディスニガ)』までの活動を振り返ったインタビュー

アメリカ社会で黒人の誇りやアイデンティティを主張し、格差や不平等と闘い続ける活動をしている、フィラデルフィア出身のアフロ・アメリカンのハードコア・バンド、SOUL GLO(ソウル・グロウ)。この度、奴隷解放記念日である6月19日にEpitaph Records(エピタフレコーズ)と契約。弱者の権利を主張し、権力者側に立ち向かっていくポリティカルなハードコア・アティテュードで、筋金入りの活動をしているバンドといえるだろう。インタビューでは結成の経緯から、バンドの主張、黒人のアイデンティティ、黒人社会の実態、今までの活動を振り返った話などを訊いてみた。

———始めにバンドを結成した経緯を教えてください。

Pierce(ピアス:ボーカル 以下:P):2014年に、Ruben(ルーベン)が俺にカジュアルでヘヴィーなプロジェクトに興味があるかどうか、訪ねてきたんだ。当時、俺は音楽を辞めることを考えていたんだけど、Ruben(ルーベン)の誘いが魅力的だったんで、バンドに参加した。その後、GGは2017年に、TJは2019年頃に加入した。

———バンド名のSOUL GLO(ソウル・グロー)とは、soul glow(魂の輝き)をもじった意味なのでしょうか?

P:バンド名には2つの意味があるんだ。ひとつはエディ・マーフィ主演の映画「星の王子ニューヨークに行く」の劇中で、カール・アクティベーターのCM(※)で使用されていた曲名からバンド名を採ったんだ。もうひとつは、SOUL GLO(ソウル・グロー)という言葉には、“内なる自己の美しさ”という意味があるからなんだ。“内なる自己の美しさ”という言葉が、バンドのコンセプトになっている。でも君が言う“あなたの魂の輝き”という解釈でも、全然かまわないよ。
※70年代のアフロシーンのヘアケア製品「Afro Glo」のコマーシャルをパロディー化したもの。映画史上最も象徴的な偽の広告と言われている。Afro Glo(アフロ・グロー)がSoul Glo(ソウル・グロー)という名に変化し、Lizzo(リッツォ)のJuice(ジュース)でさらにパロディー化された。

———フィラデルフィアは、80年代に活躍したアフロ・アメリカ人のハードコアバンド、YDIが有名です。YDIから影響を受けましたか?

P:音楽的にはYDIからの影響は、あまり受けていないんだ。ただYDIでベースを弾いていた、Chuck Meehan(チャック・ミーハン)からの影響は受けている。彼とは長年の友人なんだ。チャックはいつもライヴ活動をし、現在Soft Torture(ソフト・トーチャー)と呼ばれるバンドで演奏している。フィラデルフィアの街中で、ハードコア・ミュージックを絶えず広めているんだ。 彼はフィラデルフィアで非常に重要な人物であり、この街から生まれる音楽の情熱を体現している人物なんだ。

———2014年12月に発売された『“”』についてご質問します。この作品はDCハードコアや西海岸のスラッシュ・ハードコアにPost-hardcore(ポストハードコア)やエモが混ざった作品です。どのような過程で制作されましたか?

P:俺たちの最初のアルバム制作は、かなり難航したんだ。当時、まだGGとTJが加入する前で、19歳のベースとドラムがいた。 ミュージシャンとしてお互いを知りながら、自分たちの個性をどこまで発揮できるのか、お互いに探り探りの状態だったんだ。フィラデルフィアのSexDungeon(セックス・ダンジョン)スタジオでレコーディングを行った。SexDungeon(セックス・ダンジョン)スタジオを選んだ理由は、プロデューサーのDanAngel(ダン・エンジェル)とJamesRyskalchick(ジェームス・リスカルチック)が、Pile(パイル)のアルバム『Dripping(ドリッピング)』をプロデュースしたからなんだ。でも楽しかったよ。エキサイティングな時間だったよ。

———アメリカ国旗を燃やしたアルバム・ジャケットが印象的です。国旗を燃やした写真を採用した理由を教えてください。

P:アメリカ国旗を燃やすことは、世界中の気持ちを翻訳する意味を持っている。この国の黒人として、俺たちとアメリカとの関係の象徴として、この写真を採用したんだ。

———“Guilty of Being… Wait(ギルティ―・オブ・ビーイング…ウエイト)”では、という歌詞が印象的です。歌詞に込められ意味を教えてください。

P:この曲を説明すると、かなり長い文章になるけど、なるべく簡潔に説明するよ。“Guilty of Being… Wait(存在の罪…待つ)”は、俺たちの祖先が奴隷化された血の歴史から、資本主義経済の下で黒人アーティストとして活動する俺の気持ちを、情緒的に歌った曲なんだ。俺の気持ちと歴史的背景との関係は、自分が成長し、年をとるにつれて、考えが変わってくる。俺が体験し、その時感じた気持ちを、1枚のアルバムにカプセルのように閉じ込める方法がないんだ。だから歌詞も、日記のようなもので、歌うたびにその都度心情が変わっていく。

この曲のタイトルは、Minor Threat(マイナー・スレット)の曲“Guilty of Being White(ギルティ―・オブ・ビーイング・ホワイト)”を皮肉っている。“Guilty of Being White(ギルティ―・オブ・ビーイング・ホワイト)”は、中産階級のIan MacKaye(イアン・マッケイ)が、ワシントンDCに住む白人の若者として、抱いた感情を歌った曲だから。ワシントンDCの労働者階級の大部分は黒人だ。“Guilty of Being White(ギルティ―・オブ・ビーイング・ホワイト)”がリリースされたころ、ワシントンンDCに住む労働者階級の黒人社会には、クラック(ドラッグの一種)が流行し始めた。クラックは、ワシントンンDCに住む労働者階級の黒人の生活に悲惨な影響を与えた。これには俺の家族も含まれている。 俺の父はワシントンDC出身で、1984年当時、27歳だった。もし俺の父親が、Minor Threat(マイナー・スレット)が提唱するストレート・エッジのことを知っていたら、おそらくMinor Threat(マイナー・スレット)のライヴに行っていただろう。 その時、白人であることの後ろめたさを歌った“Guilty of Being White(ギルティ―・オブ・ビーイング・ホワイト)”の歌詞の内容を知っていたら、いったいどんな気持ちになったのだろうか?

の歌詞は、偉大な黒人思想家、W.E.B Du Bois(デュボイス)の言葉を引用したんだ。Du Bois(デュボイス)は、アフリカ系アメリカ人で、黒人の平等な権利や自由などを求めた公民権運動を行っていた政治活動家なんだ。Du Bois(デュボイス)は自らの著書、「黒人のたましい」のなかで、抑圧的な(白人)社会で従属または植民地化されたグループ(黒人)が経験する内部対立(内面の葛藤)のことを、二重の意識と呼んだ。

ウィキペディアでとは、アフリカ系アメリカ人が経験した、人種差別主義的な白人社会で、白人が黒人に対して見せる軽蔑や憐みなどの抑圧的な視線が、黒人の真の自意識の確立を阻む、心理メカニズムのことだと説明している。黒人は、に心理的なストレスを抱えていたんだ。俺はつねにの対立には、黒人がこの定義から解放され、単純に人類として存在していること望んだときに、別の層が現れると感じているんだ。1903年にデュボアが「黒人のたましい」でこの用語を作り出したとき、形而上学的な自己認識は黒人にとって一般的な慣習ではなかった。しかし21世紀以降、黒人への理解と存在は深まっている。音楽やスポーツの世界で成功し、尊敬を受けている黒人がいるように。残念ながら、その長いプロセスを通してのみにしか、白人至上主義から解放されることは、できないんだ。

SOUL GLO

「DisNigga, Vol. 2 」

———“Violence Against Black Women Goes Largely Unreported(バイオレンス・アゲインスト・ブラック・ウーマン・グース・ラージェリー・アンリポーティドゥ)“では、と歌っております。これは実際にあった事件が歌詞になっているのでしょうか?

P:この曲と“New Humanism(ニューヒューマニズム)”は、叔母が在宅中に、家宅侵入され暴行を受けた事件について歌っている。この曲では、俺たち黒人の労働に対する一般的な白人の認識が、経済に悪影響を与えているという理由で、黒人女性に対する暴力的な死(長時間労働という意味?)が優先されている、めちゃくちゃな状況について考えている。黒人女性は、俺たち黒人男性が定職につけるほぼすべての業界で、より長い時間働いているにもかかわらず、少ない報酬で仕事をしている。それ自体が暴力の一形態だ。黒人女性は、性別を超えた人種的連帯を支持する期待をもちながら、黒人男性による暴力に対処している。俺は黒人女性が人間の生活と反対の絵であると発言するとき、古典的な意味で人類は白として描かれている。(白人が作り出したシステムに黒人も無意識に従っているという意味)。たわごとのような支配は、それ自体が白人社会に影響を受けた(亭主関白的な)男らしさとして黒人社会にも多大な影響を受けている。謎の知恵だ。そして無実は同じ点で女性らしさを通して描かれている。このため、黒人女性は人間の生活のアンチテーゼであり、世界はそれの事実にもっと目を向けるべきだ。

———2016年5月には『UNTITLED LP(アンタイトルテッド・LP)』を発表しました。このアルバムから曲のタイトルが番号の曲が初めて登場します。そのあと『Live @ WKDU』の“31”まで、番号の曲が続きます。番号のみの曲名にはどんな意味があるのでしょうか?

P:曲名は、デモの段階で曲を書いた順番に番号を付けてたんだ。でもある時点から、数字に対してこだわりを持ち、言葉のタイトルを止めていたんだ。だが曲数が増えると、今度は数字によるタイトルだと、度の曲か分からなくなり、混乱する機会が増えた。だから言葉のタイトルにまた戻したんだ。

———“5”ではと歌っております。SOUL GLO(ソウル・グロー)にとって、グロバリゼーションとはどういうものなのでしょうか?

P:この曲は、白人至上主義者と闘った黒人の作家、Neely Fuller Jr(ニーリー・フラー・ジュニア)の言葉を引用している。曲の後半では、俺の怒りが込められている。黒人である俺にとって人種差別のグローバル化は、どこの国に行っても差別の目で見られることを意味している。人種差別をする彼らの世界観を否定するためにこの曲を作った。差別がどれほど絶えず起こっているか、深く理解する必要がある。そうじゃなきゃ、世界で起きている出来事が、俺にとって全く意味のないものになってしまう。

———“1”や“5”の歌詞からは、圧倒的な財力と権力と武力を持った白人と、貧困で無抵抗な社会的弱者のアフロ・アメリカンという内容の歌詞が目立ちました。『UNTITLED LP(アンタイトルテッド・LP)』のテーマを教えてください。

P:『UNTITLED LP(アンタイトルテッド・LP)』は、過去の歴史を振り返りながら自己を探求する。そのなかで自分の立ち位置を見つけ、観てきたものや学んだことを肌で感じて、理解することがテーマになっている。

———19年6月に発表された『THE NIGGA IN ME IS ME (ザ・ニガー・イン・ミー・イズ・ミー)』のアルバムジャケットは、ツアー中に立ち寄ったミズリー州の高速道路で、白人の警官が運転するパトカーにつかまったときの写真を使用しております。このとき白人の警官に人種差別的行為を受け、罰金を科せられ、訴訟にまで発展したと聞きます。詳しい内容を教えてください。

P:この事件の詳細にに関しては、説明することが出来ない。でもジャケットの写真は、俺たちの国では、いつでも黒人に起こり得ることを示している。

———“21”では、2016年8月1日にメリーランド州ランドールズタウンのボルチモア近郊で、黒人女性のコーリンゲインズとその息子が、ボルティモア郡警察によって、銃殺された事件について歌っております。具体的な内容を教えてください。

P:そうなんだ。“21”で、コーリン・ゲインズがボルティモア郡警察に殺害されたと歌ったけど、当時、銃撃戦に参加した警官の名前は、警察の命令で非公開になっていたんだ。 同時に、警察は彼女のフェイスブックのアカウントを、強制的に削除した。彼女のアカウントには、彼女が撮影した銃撃戦のビデオが文字通り含まれていたからなんだ。

“31”では、投獄された若者と音楽を演奏するボランティアプログラムで、Malique(マリック)という若い男に出会ったことについて歌っている。マリックと俺はお互いにロックが好きだったので、いろいろなジャンルの音楽について話した。しばらくマリックと会っていない間に、彼はプログラムに参加するのを止めてしまった。その間に彼は9ヶ月間独房に閉じ込められていた。その事実を俺が知ったのはずいぶん後になってからだ。 彼はずっと長い期間、刑務所に入っていた。 彼が独房の孤独から抜け出したとき、ひどく塞ぎこんでいた。そして音楽への情熱を失ってしまった。その事実に俺は驚いている。

どちらの件も、犯罪者の黒人に対して非常に軽率な態度をとる俺たち社会の保護者(警察)が、命の尊厳を無視して黒人に接していることが分かる事例なんだ。

———2020年11月6日にリリースされた『Songs to Yeet At The Sun(ソング・トゥ・イエット・アット・ザ・サン) 』の“(Quietly) Do The Right Thing((クイックリー)ドゥ・ザ・ライト・スィング)”では、という歌詞が印象的です。また“Mathed Up(マッシュッド・アップ)”では、と歌っております。『Songs to Yeet At The Sun(ソング・トゥ・イエット・アット・ザ・サン) 』のコンセプトを教えてください。

P:『Songs to Yeet At The Sun(ソング・トゥ・イエット・アット・ザ・サン)』は、俺の人生で起こった出来事を、スナップ写真のようにまとめた内容なんだ。そこにはバンド・メンバーの個人的な生活の出来事も含まれている。俺たちが黒人であることを念頭において、黒人の存在を国民に理解してもらうことをつねに意識して、歌詞を書いている。

———『DisNigga, Vol. 1 (ディスニガー,Vol. 1)』では、インダストリアル・ラップからスクリーモ、ポストハードコアをごちゃまぜにしたサウンドが印象的です。まるでハードコア歴史を総括したような内容です。どのようなサウンドを目指して、この作品を制作しましたか?

P:『DisNigga, Vol. 1 (ディスニガー,Vol. 1)』は、スペースがない曲をコンセプトに制作されたシングルなんだ。スムーズに順番に曲が進むことによって、曲自体に独自のアイデンティティを形成している。俺たちには、曲作りに対してたくさんのアイデアがある。もしアイデアがうまくいかないのなら、その曲はアルバムに残したくない。曲自体に統一されていないけど、そんな作品はアメリカの音楽で、たくさんあった。黒人音楽と繋がっていることを除いてね。

SOUL GLO

「DisNigga, Vol. 2 」

———2021年6月19日にEpitaph Records(エピタフ・レコーズ)と契約しました。バイデン大統領が署名したことで、6月19日が奴隷解放記念日「ジューンティーンス」と名付けられたアメリカ連邦の祝日に制定されました。6月19日にEpitaph Records(エピタフ・レコーズ)と契約した経緯を教えてください。

P:Epitaph Records(エピタフ・レコーズ)は俺たちに興味を持ってくれたんだ。多くの交渉を経て、契約した。2021年6月19日は偶然にも俺たちの生活に変化をもたらした日だった。適切だと思ったから、その日を選んだんだ。

———『DisNigga, Vol. 2 (ディスニガー,Vol. 2)』は『DisNigga, Vol. 1 (ディスニガー,Vol. 1) 』の続編です。『DisNigga, Vol. 1(ディスニガー,Vol. 1) 』と違い『DisNigga, Vol. 2 (ディスニガー,Vol. 2) 』ハードコアな曲が多いです。『DisNigga, Vol. 1 (ディスニガー,Vol. 1) 』と『DisNigga, Vol. 2(ディスニガー,Vol. 2) 』のコンセプトの違いを教えてください。

P:コンセプトに違いはないんだ。ただ作った曲が『DisNigga,』の続編であると感じたら、タイトルを『DisNigga, Vol. 3(ディスニガー,Vol. 3) 』にするつもりでいる。巻が増えるまで待っててくれ。

“B.O.M.B.S.(ボムズ)”ではと歌っております。歌詞の意味を教えてください。

P:とは、誰も俺たちを模倣することが出来ないという意味なんだ。俺たちが発言することを、誰も同じように言うことが出来ない。俺たちの曲を、他人が俺たちと同じように演奏することが出来ないことを確信している。

———SOUL GLO(ソウル・グロー)の歌詞全般を通して、銃や警察権力などを持った白人が、弱者である黒人に対して、暴力を振るい、時には殺人を犯し、黒人を収監するという、白人が強者で黒人が弱者というアメリカ社会の構図がよく分かりました。アフロ・アメリカンであることの過酷な状況が伝わってきます。もしご迷惑にならなければ、アメリカ社会におけるアフロ・アメリカンの現状を教えてください。

P:興味深い質問だけど、答えることはほぼ不可能なんだ。なぜなら、答える人によって、答えが違うから。アメリカでの黒人の生活と個人が経験する内容は多様だ。2人として同じ経験をした人はいない。それでも同時に、黒人としてこの国にいることは、非常にありふれた経験がたくさんある。俺たちの文化は、違いがあると同時に、類似点もたくさんある。俺に関して言えば、多くの痛みを伴う経験をしたけど、それは本当に美しくいい思い出だ。このバンドに入ってから、いろいろな黒人アーティストと知り合い、友達になり、一緒に多くのことを学んだ。一緒にツアーを周ることを目標とし、ともに音楽で生計を立てる機会を得た。ひどく過小評価されているパンク・シーンで、お互いに演奏し合うことで、多くの音楽スタイルやトレンドを学び、多くの経験を積ませてもらったよ。

———SOUL GLO(ソウル・グロー)というバンドを通して、世の中に伝えたいメッセージがあれば教えてください。

P:俺たちはライヴを演るのが大好きなんだ。俺たちのライヴを観たいのならメールを送ってほしい。

———SOUL GLO(ソウル・グロー)にとってパンクとは何か?教えてください。

P:パンクとは俺たちにとって愛する音楽であり、パンク精神にあふれた音楽しか作りたくない。パンクではないけど、創造の精神にあふれた音楽や、アートはたくさん世の中に存在している。俺たちはいつもそんな音楽を聴いて、創造的なアートを観て感動している。

———最後に今後の予定について教えてください。新作を発表などがありますか?

P:今後数か月の間に、新しくたくさんのシットな出来事がやってくる。俺に言えることはそれだけだ。俺たちの音楽に興味を持ってくれて、ありがとう。

 

SOUL GLO

「DisNigga, Vol. 2 」

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