インドはシロン出身のメロディック・ハードコア/ポスト・ハードコア・バンドのデビューEP。初期のころはデスグラインドを展開していたが、本作からメロディック・ハードコア/ポスト・ハードコアへサウンド路線を変更した。
どこどこ揺れるバスドラが印象的なブラストビートから、呪術師のようなデス声、メタルのテクニカルでメロディックなギターを融合したファストで技巧的なハードコア。
Gardenia(ガーデニア)という、くちなしの花がタイトルにつけられた本作では、汚れた沼地でもきれいな花が咲くことがテーマになっている。「Gardenia(ガーデニア)」では、悪徳があなたの心に入り込むこともあるが、過ちを捨て新しく始めようと歌い、「Wither(ウィーザー)」では、自分の世界が崩壊していく悲しみと挫折と喪失を歌っている。どんなに厳しい状況に陥っても、反省しながら、道徳的に正しい道を突き進めと歌っている。
まるでガーデニアという花が放つジャスミンに似たエキゾチックな芳香と、暗く陰りのある美しいメロディーが混ざり、心にしみる展開。速さと激しさと美しさが目まぐるしい閃光を放つインド特有のエキゾチックな作品だ。
アルバムレビュー
CATATONIC(キャタトニク)
Love Letter(ラブレター)
『Everyone Wants Something Beautiful(エヴリワン・ウオンツ・サムシング・ビューティフル)』
ニューイングランド出身のポストハードコア/スクリーモ・バンドの1stアルバム。2024年の作品だが、個人的には昨年のベスト1はこの作品。
Touché Amoré(トゥーシェ・アモーレ)から進化したポストハードコアで、圧倒的にメロディーがすごい。まるで病んだ精神状態を表したようなメランコリックで愁いを帯びた、美しくも繊細で悲しげなメロディー。そこに激情の濁流のようなドラマティックで豪快なギターがぶつかり合う展開。心の悲痛な叫びを絶叫するヴォーカル、暗く憂鬱なメロディー、どれをとっても美しく儚く切ない。
日本語で『誰もが美しいものを求めている』という意味のタイトルの本作では、貧困からくる精神的疲弊、性的虐待、身体的虐待、ネグレクトなど、過酷な環境で生きている人たちが、テーマになっている。
歌詞は、“Wellness Checks and Dead Friends(健康診断と亡くなった友人)”では、「 生きたいと願う人生、輝きたいと願う日の出 誰もが美しいものを望んでいる」と希望を望んでいながらも、絶望から逃れられない過酷な人生について歌い、“Misanthropic Holiday or Vacation(人間嫌いの休日または休暇)”では、「診断を受けたが、その症状のせいで息をするのも息が詰まりそうだ。罪悪感と恥辱感で傷つき、共感力が不安定だ。適切な薬を見つけて、物の見方を変えよう。」と、うつ病の精神状態について歌っている。“Meds and Taxes(医薬品と税金)”では、「どん底から這い上がろうが、心がめちゃくちゃになって腐っては何も得られない。 ここにいると夢も見ず、ただ溺れるだけ」と、日本のような国民健康保険が存在しないアメリカの過酷な医療制度の現状を歌っている。また、“Panic Disordinary(パニック障害)”では、「あなたが飲み込んだ地獄は知らないうちに増幅する。破滅した者は破滅させる者になり、破滅した者は破滅させる者になる」と、パニック障害に陥った心の状態を歌っている。
そこではヴォーカルでありフロントマンであるQuinn Murphy(クイン・マーフィー)が、精神病院に入院した経験について歌い、パニック障害の過酷な精神状態と、アメリカの医療制度についての怒りを、激情というリアリティーで、歌っている。
これほど怒りと悲しみが竜巻のように渦を巻きながら上昇していく激しい作品はない。精神の病んだ貧困層を搾取するアメリカの過酷な現状が伝わってくる。
Nainsook(ネーンスック)
『L.M.I.H』
ネパールはカトマンズ出身のメタリック・ハードコア・バンドの1stアルバム。KING NINE(キング・ナイン)やIncendiary(インセンダイアリー)などのニューヨーク・ハードコアをさらに進化させたようなミドルテンポのメタリック・ハードコア。叙情的なメロディーパートのギターから、硬質なハードコア・ギター、ニューヨーク・ハードコアの歌いまわし、シンガロングスタイルのヴォーカル、ピッグスクイールなどを取り入れ、最先端のハードコアを展開している。
歌詞は、差別をなくし団結を呼びかける「Ekata」から、パンク精神を称賛している「Viva La Punk」、警察の暴力に立ち向かう「FTFP」、兄弟愛のテーマにした「KVHC (Kathmandu Valley Hardcoreカトマンズ・バレー・ハードコア)」、バンドの揺るぎないDIY精神を歌った「Let’s Make It Happen (LMIH)」、口先だけで行動しない人々を非難した「Just Chatter」、忠実な友人たちに敬意を表した「Homies」、人前では善人のふりをしながらも、陰で悪口をいう、有害な行動をする人を非難した「Backstabber」、自分自身の真理を探求しハードコアに捧げた人生について歌った「We, Us, and Them」、反抗的な戦いの叫びを歌った「One Hardcore, No Mercy」など、団結や回復力、ハードコアの生々しいエナジーとリアリティーがテーマになっている。
ハードコアは単なる音楽ではなく、生き方であることを証明するため活動し、闘争と団結を理念に活動しているバンド。アジアの途上国にあるバンドだが、そのサウンドは、サン先端で洗練されている。まさにカトマンズ・バレー・ハードコアという、唯一無二の個性があり、誇りを闘争心と熱意を感じる熱いバンド。アメリカや日本やヨーロッパのバンドにもひけを取らない、かなり素晴らしい作品。