Jawbreaker(ジョウブレイカー)
『Don’t Break Down: A Film About Jawbreaker (ドント・ブレイク・ダウン)』

サンフランシスコを拠点に活動した、エモの先駆者として知られるジョウブレイカーのドキュメンタリー映画のDVD。1986年の結成から解散する96年までの活動を追った内容で、日本ではSunny Day Real Estate(サニー・ディ・リアル・エステイト)やTexas Is the Reason (テキサス・イズ・ザ・リーズン)などと並び、エモの先駆者として語られていたジョウブレイカー。日本ではエモのマニアックなバンドとひとつとして知られていたジョウブレイカーだが、実際のところアメリカでは、Nirvana(ニルヴァーナ)の次に大ブレイクを果たす可能性のあるバンドは、ジョーブレイカーではないかと、期待されていたバンドだった。

 

ジョウブレイカーは、90年代に西海岸のパンクの聖地といわれるライヴハウス、『ギルマン・ストリート』で頭角を現し、インディーズ・バンドとしてかなりの人気を集めていた。一度聴いたら頭から離れないコーラスが印象的だった『Unfun (アンファン)』。Unfunの激しさを新しい形へと昇華させた『Bivouac (ビバーク)』。そしてSteve Albini(スティーヴ・アルビニ)のプロデュースのもと、よりメロディックに泣きと深みが加わった作品で、最高傑作と目される『24 Hour Revenge Therapy (24アワー・リベンジ・セラピー)』。アルバムを重ねるごとに、最高傑作を更新し、順調な成長を見せていた。

 

だが93年10月にニルヴァーナと周った全国ツアーをきっかけに、ファンから反発を買うようになり、周囲の様子は変化していく。当時のニルヴァーナ―は、メジャーで大ヒットを遂げた大物ミュージシャンであり、ジョーブレイカーも、D.I.Y精神を捨て、セルアウトするのではないかと、うわされていた。90年代当時のアメリカでは、メジャーに行ったから、あいつはパンクではない。売れ線に走った、メジャーに行ってD.I.Y精神を捨てたなど、そんな風潮があった。

 

ジョーブレイカーは、ライヴでことあるごとに、メジャーには移籍しないと公言していた。それにも関わらず、その発言からわずか数週間後にメジャーレーベルのゲフィンと契約。メジャーに移籍することは、D.I.Y精神に反する行為と古くからのファンからは裏切り行為と捉えられ、ファン離れが起きてしまった。だがたとえメジャーに移籍しても、いい作品を作り、新たなファン層を獲得し、インディー時代を凌駕するほどの魅力あるバンドへ成長を遂げることが出来たのなら、おそらくジョーブレイカーの決断は間違っていなかったのかも違いない。だがメジャー移籍が、結果、悪い方法に進んでいった。

 

95年に発売された『Dear You(ディア・ユー)』では、プロデューサーにGreen Day (グリーン・ディ)の『Dookie(ドゥーキー)』をプロデュースしたことで知られるRob Cavallo (ロブ・キャヴァロ)を起用。そしてあろうことが事務所もグリーンディと同じ会社に所属した。その結果、いままでの彼らの個性が失われた作品に仕上がり、メジャーになって彼らのことを知ったパンクファンからは、グリーンディの2番煎じと罵られてしまった。新たなファンを獲得するどころか、逆にファン離れが加速し、巨大な雪ダルマが高速で坂道を転がるような勢いで、ジョーブレイカーは失墜していった。そしてバンドが低迷していくことによって、メンバー内の人間関係がさらに悪くなっていく。最後はメンバー間のつかみ合いの喧嘩という決定的な仲違いが起き、ツアー途中で解散してしまう。

 

ジョーブレイカーとは、メジャー・レーベルに移籍したことによって、D.I.Y精神を捨てたパンク・バンドと罵られ、ファンに見捨てられた、悲運のバンドなのだ。『NOFX自伝 間違いだらけのパンク・バンド成功指南』のなかで、Fat Mike(ファット・マイク)がジョウブレイカーの顛末をみて、メジャーに移籍しないと、決意した遠因になったのは有名な話だ。

 

だがジョーブレイカーには、いまなお聴いても色あせない名曲が数多く存在する。初体験の甘酸っぱさを歌った“Chesterfield King(チェスターフィールド・キング)“や、失恋の悲しみを歌った“ Do You Still Hate Me?(ドゥ・ユー・スティル・ヘイト・ミー?)”など、心の琴線に響く名曲ばかりなのだ。まさにジョーブレイカーの本人たちが呼んで欲しかった呼称であるエモ(感情が揺さぶられることという意味でのエモ)な感情に満ちているのだ。

 

ジョーブレイカーはエモと呼ばれることに、こだわりを持っていたバンドでもある。バンドたちによって、エモとは、(女々しくうじうじしたバンド)という意味に変わっていくわけだが...だが後世のエモと呼ばれるJIMMY EAT WORLD(ジミー・イート・ワールド)やTHE GET UP KIDS(ザ・ゲット・アップ・キッズ)、The Promise Ring (ザ・プロミス・リング)などのバンドと比べると、明らかに出自が異なっている。メロディック・パンクと呼ばれることがなければ、本当の意味でのエモ・バンドでもない。どこにも属すことができなかった異端な存在でもあったのだ。線香花火のように瞬間に輝き散っていったバンドだが、いまなお忘れされることがない。エモ/メロディック・パンク界には、計り知れない影響を与えた伝説のバンドなのだ。

Every Time I Die(エヴリ・タイム・アイ・ダイ)
『Radical(ラディカル)』

ニューヨークはバッファロー出身のメタルコア・バンドの9作目。このバンドもメタルコア界で独特なサウンドを展開している。サザンロックとニュースクール・ハードコアとメタルコアの融合で、自らの個性を確立した『Hot Damn!(ホット・ダム!)』そのサウンド路線を極め追求した『Gutter Phenomenon(ガッター・フェノメン)』と『The Big Dirty(ザ・ビック・ダーティ) 』。その後、クラッシクやハードロックなどを取り入れた『From Parts Unknown(フロム・パートズ・ノウン)』、ストナーロックの要素が強くなった『Low Teens(ロウ・ティーンズ)』など、『From Parts Unknown(フロム・パートズ・ノウン)』以降、サザンロックとメタルコアというサウンド路線に、別の要素を付け加え進化していった。

 

そして今作では、クラシカルで神秘的な要素から、マスコアやストナーロックの要素を合わせたメタリック・ハードコアな曲など、バラエティーに富んだ作品に仕上がっている。怒声が飛び交う気合の入ったボーカルとサウンドは健在だが、とくに印象的なのは、独特なギターフレーズの曲。まるで忍者映画のようなギターフレーズのようなワクワクした気持ちにさせられる“Planet Shit(プラネット・シット)”。

 

そしてなによりすごいのがメタルコアの最新版と呼ぶべきサウンドを展開している“A Colossal Wreck(ア・コロッサル・レック)”と“Desperate Pleasures (デスパレート・プレジャーズ)”。マシンガンのような超高速ドラムと、突風のように激しいギターが合わさった、突如静寂が訪れるカオティックな曲で、そこにはニュースクール・ハードコアとメタルコア、スロナーロック、マスコアが、ミキサーで攪拌し、怒りや狂気をスムージーにしたような混乱と無秩序なカオティックなサウンドを展開している。そしてなにより彼らの魅力は、古臭さを感じない、いまどきの近代的な音をメタルコアに落とし込んでいるところにある。それが『Radical(ラディカル)』の魅力なのだ。

 

9枚の作品を発表しながらも、制作意欲が衰えず、しかも弛緩した部分は一ミリもない。メタルコアを確実に進化させている作品なのだ。

The Muslims(ザ・ムスリムズ)
『Fuck These Fuckin Fascists (ファック・ズィーズ・ファッキン・ファシストズ)』

イスラム教徒のハードコア・バンドの4作目。The Muslims(ザ・ムスリムズ)と名付けられたバンド名は、アラビア語でイスラム教徒という意味。そもそもムスリムとイスラム教徒との違いは、同じ神を信仰しているけど、イスラム教徒は、酒を飲まないなど、厳格な戒律を守る人が多い。ムスリムはトルコ人のように酒を飲む人もいる。いわばゆるいイスラム教徒なのだ。

 

デビュー作の『Muslims At The Mall(ムスリムズ・アット・ザ・モール)』はガレージや初期パンクにイスラム教の旋律を合わせたサウンドだった。そしてファスト・コアの要素が強くなった『MAYO SUPREME(マイヨ・スプリーム)』2作目。Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリクス)のようにサイケデリックなギターが印象的なEP『Inshallah: Tomorrow We Inherit The Earth(インシャラ・トゥモロー・ウィー・インヘリット・ザ・アース)』。ノイズコアな『Gentrifried Chicken(ジェントリフィケーション・チキン)』と、作品ごとに異なるサウンドを展開してきた。

 

そして今作では原点回帰の初期パンク・サウンド。いままでになくポップな作品に仕上がっている。SEX PISTOLS(セックス・ピストルズ)のようなとがったギターに、甲高い声のボーカルと、お時話のようにふざけた声のコーラスが絡む展開。そこには明るくポップなユーモアが漂っている。

 

歌詞はファシズムや白人至上主義への怒りや、人種差別などについて歌っている。だがそこにシリアスさはなく、グロポップな要素がある。例えるなら、『ダウンタウンのごっつええ感じ』内で放送されていたアニメ、“きょうふのキョーちゃん“のような、怒りをホラー・スプラッターにして笑いに変える、ブラックユーモアな感覚。“Illegals(イリーガルズ)”では、白人移民も違法のはずなのに自分たちだけが罪に問われることへの、虐げられた状況を自虐的に笑い飛ばし、“John McCain’s Ghost Sneaks Into The White House And Tea Bags The President(ジョン・マケイン・ゴースト・スニーク・イントゥ・ザ・ホワイトハウス・アンド・Tバックス・ザ・プレジデント)”では、オバマ大統領に大統領選挙で敗れたジョン・マケインのことを、未練がましいと揶揄している。アメリカ社会ではマイノリティーであるイスラム教徒。マイノリティーであるがゆえに差別や迫害を受けるケースも多々あるだろう。だが彼らは、そんな怒りをグロポップに変え、笑い飛ばしている。それがThe Muslims(ザ・ムスリムズ)の特徴なのだ。

 

イスラム教のパンク・シーンといえば、タクヮコアを思い起こすが、このバンドはどうやらタクヮコア・シーンとは関わりがなさそうだ。ヒステリックなほど甲高い声でせわしなく病的な明るさ。激しくポップで毒に満ちたサウンド。サウンド的には目新しさこそないが、新しい精神性や価値観を提示したバンドであることに間違いはない。