Cursive(カーシヴ)
Get Fixed(ゲット・フィックスド)

ネブラスカ州オハマ出身のポストハードコアバンドの9作目。1年ぶりとなる作品。前々作から前作までの発表が6年かかり、今作では発表までに1年の歳しか要していない。その理由は、おそらくチェロ奏者のMegan Seibe(メグアン・シーベ)が加わり、表現意欲にあふれた充実期に入ったからだろう。今作も前作の延長上にあるサウンドで、シュールレアリスム・ホラーのような神秘的で病んだ精神世界を追求している。

 

フリージャズのような劇的なホーンの音色が、当然不幸が襲い掛かったような気持ちにさせる“Horror is a Human Being(ホラー・イズ・ア・ヒューマン・ビーイング)”。おどろおどろしく愁いに満ちた悲しげなギターな印象的な“marigolds(マリゴールドズ)”。情緒不安定で発狂したような音色のキーボードが印象的な“Look(ルック)”。クラッシクのように上品で繊細な音色ながら洞穴に一人こもっているような暗い孤独を感じさせる“What’s Gotten into You?(ワッツ・ガッテン・イントゥ・ユー?)”と、今作でもノスタルジックでサイケデリックで奇異な音色を入れながら、独特なサウンドを追求している。

 

今作ではアメリカ国内にはびこっている怒りと絶望がテーマ。ボーカルのTim Kasher(ティム・カッシャー)は、全世界で蔓延している悲観的でどん欲なナショナリズムに触発された制作したそうだ。日本で例えるなら、地球温暖化を顧みず、日本企業の利益のためだけに火力発電を途上国に推進する身勝手な政策。そんな自己中心的な考えが全世界の国家間のなかで蔓延しているのだ。そんな自己中心的な考えの国家に対して、市民レベルでの感情論が展開されている。そこには怒りというよりも、強権から振りかざされる巨大な暴力に対する、メランコリックな精神を不安にさせる憂鬱な感情が支配している。まるで世界の終わりを予見しているかのように。

 

今作も独特な世界観と前衛的なサウンドを追求している。情緒不安精査と狂気を感じる素晴らしき作品なのだ。

face to face
『Live In A Dive(ライヴ・イン・ア・ドライヴ)』

95年の『Combat Zone(コンバッド・ゾーン)』、96年の『Econo Live(エコノ・ライヴ)』、98年の『Live(ライヴ)』に続き、4枚目となるライヴ盤。ファット・レック・コーズに所属するアーティストが、ライヴ盤を発表するお馴染みの企画だが、今回はface to face(フェイス・トゥ・フェイス)が担当。

 

いままで発表した3枚ライヴ盤は、20代のころの作品だった。とくに98年の『Live』は、当時のベストな曲だけを集めた集大成的な内容だった。ライヴ自体もフレッシュな若さと勢いと衝動に任せたライヴを展開していた。若さゆえにいまの自分の心境を伝えたいという気持ちが強く、いい意味でも悪い意味でも若さゆえの実直な真面目さがあった。

 

40代後半になり、21年ぶりに発表した『Live In A Dive(ライヴ・イン・ア・ドライヴ)』では、円熟味を増したライヴを展開している。まさにメロコアど真ん中のといえるライヴ。若いころの彼らは泣きコアと言われたほど、ペシミスティックな要素があった。円熟味を増した現在では、メロディーのエッジは立っているし、エネルギッシュで、切ない部分や、緩んだところは一切ない。ファンと一体となってシンガロングし盛り上がる“Bent but Not Broken(ベント・バット・ノット・ブロークン)”“Bill of Goods(ビル・オブ・グッズ)”から、明るく楽しいメロディックな“Double Crossed(ダブル・クロスド)”、“What’s in a Name(ワッツ・イン・ア・ネイム)”、スピーディーでフェイス・トゥ・ファイス節の効いた“No Authority(ノーオーソリティー)”など、ファンと一緒になった楽しめるエンターテイナーに徹したライヴなのだ。

 

けっして過去の名曲をやるのではなく、中期、後期からの選曲が非常に多い。そこには開き直ったようなスカっとした爽やかさを感じる。若いころに心の余裕のなさから、苦い思いを経験し、挫折を味わってきた。苦労を乗り越え、他者の気持ちが分かるようになったからこそ、現在の充実感につながっているのだろう。

 

彼らのサウンドはけっして古びていなければ、ノスタルジーにもなっていない。40代の心境を赤裸々に綴ったリアルなパンクが鳴らされているのだ。

Deaf Club(デフ・クラブ)
『Contemporary Sickness(コンテンポラリー・シックネス)』

The Locust(ロカスト)やDead Cross(デッドクロス)などのメンバーで知られるサンディエゴのパンク名士Justin Pearson(ジャスティン・ピアソン)が結成した新バンド。Struggle(ストラグル)からSwing Kids(スウィング・キッズ)、ロカスト、The Crimson Curse(ザ・クリムゾン・カース)、Holy Molar(ホリー・モーラー)、SOME GIRLS (サム・ガール)、Head Wound City(ヘッド・ウォンド・シティ)、All Leather(オール・レザー)、RETOX (レトックス)、デッドクロス、Planet B(プラネットB)と、いままで数えきれないほどのバンドを結成しては、休止?解散?を繰り返してきたジャスティン・ピアソン。そして今回も、おそらくすぐ休止(現在ロカストを再結成)してしまうのだろう。

 

アルバム・タイトルが『現代の病気』と名付けられたDeaf Club(デフ・クラブ)の5曲入りのEPは、デリンジャー・エスケープ・プランのようなマスコアに、デジタル音を合わせた奇怪なデジタル・ハードコア・と呼ぶべきサウンドに仕上がっている。

 

線香花火のように激しく燃え散るブラストビートや、1分で終わるファストなグラインドコアに、ストップ&ゴーや、神経に触る不快なデジタル音、マスコアのカオティックな要素が、サイケデリック模様のように混沌としたサウンド。

 

そこには制御の失ったコンピュータのような、荒れ狂ったカオスがある。まるであらゆるプレッシャーや緊張感に押しつぶされ、締め切りに追われ、正しい判別がつかなくなるほど目まぐるしく、精神が錯乱するカオティックな混乱なのだ。

 

ジャスティン・ピアソンがバンドを結成しては解散を繰り返す理由には、おそらくバンドごとに異なるスタイルの音楽性を求めているのと、初めてバンドを組むときだけ得られる初期衝動を求めているからではないか。いままで組んだ全バンドの作品を通じて感じる新鮮さと緊張感は、初めて組むバンドメンバーでしか感じることのできないアンサンブルがある。

 

なれ合いのなかで生じてくるマンネリ化を極端なほど嫌い、つねに緊張感のなかで新しい刺激を求めている。それがジャスティン・ピアソンのパンクなのだろう。今バンドでも新しいサウンドを展開している。

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