BAD RELIGION(バッドレリジョン)
『TRUE NORTH(トゥルー・ノース)』

トゥルー・ノーストゥルー・ノース
バッド・レリジョン

SMJ 2013-01-22
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12年に発表された16作目。いつもながらの性急なスピードのメロコアに変わりはない。今作では、1曲除いてすべての曲が2分台で、ファストな曲でしめられている。たとえるなら、『ノー・コントロール』のように、メロディーよりもギターコードに重点を置いて作られている。芯の強さを感じることのできる力強さが魅力の作品だ。

 

『トゥール・ノース』というタイトルの意味は、コンパスが示す極北と、地図に書かれた極北の位置の違いについて。自分の人生という長い時間のなかで、主義や理想や信念が、状況や生活によって、生きていくために変更を余儀なくされる。それを真実の北の位置示す方位磁針というメタファーを使って表現している。その言葉に込められている意味とは、自分にとっての真実、(真実の北の位置)とは、なにか。人生の意味とは何なのかを、探求している。そして何かを成し遂げることをテーマに、長い人生を総括しようとしている。

 

ここで表現されている感情は2つ。ひとつは怒りについて。“ロビン・フッド・イン・リヴァース”では、金持ちがさらなる富を稼ぐため、キリストにお祈りを捧げていると歌い、“ランド・オブ・エンドレス・グリード”では、富裕層の際限なき欲望のために貧困層が犠牲になっていることを歌っている。“ファック・ユー”では、たとえケンカに巻き込まれ、友人を失っても、その言葉を言わないといけない時があると歌っている。歌詞自体、難解な比喩や言葉を取り払い、シンプルな言葉で怒りを述べている。その怒りの矛先も、矛盾や欺瞞を唱える宗教、富をむさぼる資本家 など、対象が明確。年をとると10個あった怒りは、半分に減っていくという。半分に減る理由は、そこに自分の落ち度や至らなさに気付くからだ。そして反省や過ちの懺悔するたびに理解力が深まって、次に同じ経験をしても怒らなくなる。そして最後にはひとつだけ残るという。でも残ったひとつは、理解することによってさらに怒りがこみ上げてくる類のもので、尋常でない怒りを伴っているという。ここで歌われている怒りとは、フィルターを通り越した根源的な怒りなのだ。

 

そしてもうひとつは人生について歌っている。 “パスト・イズ・デッド”では、深い後悔や罪の意識に苛まれても、うまく忘れることが成功の秘訣と述べ、<過ぎ去った時間はもう死んだ。善行を積んでも先に進めない。大切なのは今どうあるべきか>と、歌っている。““チェンジング・タイド”では、普遍的に変わらないと信じていた信念が、変化していくものだということに気づけと、歌っている。 大切にしている信念というものは、考えが古くなり、頑固に固執しても、自分の柔軟性を失うだけだと述べている。永遠に変わらないものや深く信じているものこそ変化の対象だから、もっと知識を身に付け、違った角度から検証しなおさなければならないと歌っている。

 

ここで鳴らされているのは、挫折や悲しみや苦しみなどの経験の先にある音だ。たいてい歳を取ると、制御の効いた感情と、人生を振り返るような円熟味に向かう。でもここでは枯れや落ち着きはない。あるのは尋常でない怒りだ。知識と経験を身に付けた結果、たどり着いた境地なのだ。その気持ちに達した理由は、後世に負の遺産を残したくないという思いからだろう。このまま進めば戦争に突入するかもしれないのに、それなのに自分たちの儲けしか考えない富裕層に対して怒りが増加したのが原因だろう。

 

人生歳を取ると責任が増えていく。そのなかで人にあたえる歓びがあることに気付くそうだ。90パーセントに属す人々がハッピーになるためには、10パーセントに属し富を独占している人々を引きずりおろすこと。人より有名な自分たちが富裕層の悪徳を暴露していかなければいかない。人々に不況の原因がどこにあるのか答えを提示することが彼らの義務なのだ。それが彼らの捜し求めていた答えであり、人生の意味や存在理由なのだ。その考えが、社会の幸せに繋がると考えているようだ。それが今作のモチベーションなのだ。

 

歳を取らなければ理解できない怒りに満ちたサウンドだし、今作もいい作品だ。