アルバムレビュー

DRUG CHURCH(ドラッグ・チャーチ)
『Hygiene(ハイジン)』

ニューヨーク州オルバニー出身のポスト・ハードコア・バンドの4作目。初期のころは、JAWBOX(ジョーボックス)系のエモーショナル・ハードコアやDinosaur Jr(ダイナソーjr)のようなオルタナ・ロックだったが、作品を重ねるごとにステップ・アップし、オリジナルティーあふれるサウンドにたどり着いた。

ドラッグ教会というバンド名で、ウィキペディアによれば、“DRUG CHURCH(ドラッグ・チャーチ)は、社会問題に焦点を当てており、暗くて風刺的な傾向があります。”と書いてあるが、この文章も含め、悪意に満ちた悪ふざけの要素を感じるバンドだ。

だがそのサウンドはTURNSTILE(ターンスタイル)に匹敵する独特なオリジナルティーがある。持ち前のチープで浮遊感あるノイズ・ポップをベースに、ガレージからサイケ、オルタナにメロディックパンク、TURNSTILE(ターンスタイル)っぽいポストコアな要素も取り入れ、荒々しくノイジーでありながらも奇妙で独特なポップ感に仕上げている。

歌詞は“楽しみは終わった”や“退屈”など、あまり意味がない内容を冷笑的に笑うシニカルさがある。古くはProng(プロング)の『Cleansing(クレンジング)』、近年ではVein.fm(ヴェイン.fm)の『Errorzone(エラーゾーン)』のアルバム・ジャケットをオマージュ。そこにはこのバンドを象徴するようなシニカルでストレンジな世界観が漂っている。

ノイジーで明るく奇妙なポップさがありオリジナルティーあふれる作品。昨年のベスト10に入るほど、個人的にはかなり好きな作品。

Candy(キャンディー)
『Heaven Is Here (ヘヴン・イズ・ヒア)』

ヴァージニア州リッチモンド出身のハードコア・バンドの2022年に発表された2作目。前作の『Good To Feel(グッド・トゥ・フィール)』からさらにパワーアップした、Full Of Hell(フル・オブ・ヘル)などのバンドと同等格の、モダン・ヘヴィネスの最前線にいる作品に仕上がっている。

前作『Good To Feel(グッド・トゥ・フィール)』も、最新ヘヴィネスの最前線にいる作品であったが、今作では、灰野敬二のようなノイズ度が増し、エレクトロ、メタルコア、インダストリアル、ノイズ・ミュージックにデスメタルにいたるまで、この世の不快さや不吉、邪悪なものすべてをぶち込んだ。音が割れた過酷なノイズの波が激流にのって電子音楽と衝突し、暴力的なサウンドを形成している。ドス黒い煙が竜巻のように上昇気流に乗って天に舞い上がるサウンドは、その煙を吸えばたちまち邪悪に変化するような邪悪な瘴気が漂っている。耳障りな不快なノイズ、エラー音のように不協和音を連打するインダストリアル・ドラム、暴力的な音圧のギター、音が悪いことが前提で作られた作品で、すべてが邪悪で暴力的なのだ。

ここに広がるのはまさに地獄絵図のデストピア。『Heaven Is Here(天国はここにある)』というタイトルには、逆説的な意味がある。ボーカルのZak Quiram(ザック・キラム)は、「自分自身の地獄/私は地獄で燃えている」と叫び、阿鼻叫喚のボーカルや不安と焦燥に満ちたスピードのサウンドからは、阿鼻地獄や大焦熱地獄で焼かれているような世界を表現している。

去年一年のなかで、一番不快で、過激なヘヴィネスな作品は何かと聞かれれば、まちがいなくCandy(キャンディー)
『Heaven Is Here (ヘヴン・イズ・ヒア)』を挙げるだろう。これは現代ヘヴィネスの最先端の作品であり、唯一無二の過激な個性を持ったすごいサウンドの作品だ。

Zulu(ズール)
『A New Tomorrow (ア・ニュー・トゥモロー)』

ロスアンゼルス出身のパワーバイオレンス・バンドのデビューアルバム。21年はTurnstile(ターンスタイル)の『Glow On(グロウ・オン)』、22年はSOUL GLO(ソウル・グロー)の『Diaspora Problems(ディアスポラ・プロブレムス)』、そして23年はZulu(ズール)の『A New Tomorrow(ア・ニュー・トゥモロー)』がハードコア部門のベスト1といわれるほど、ちまたでは評価の高い作品だ。

『A New Tomorrow(新しい明日)』というタイトルの今作では、野獣のようなどう猛さのパワーバイオレンスが、味わい深さのあるR&Bやソウル、ジャズ、トライバルのサンプリング音楽に変わっていく展開。パワーバイオレンスとジャズやソウルとの融合ではなく、激しさから美しさと穏やかさへとドラマティックに曲が変貌していく、2面性のコントラストがある。

“Music To Driveby(ミュージック・トゥ・ドライブバイ)”では、重いリズムのパワーバイオレンスからソウル・ミュージックのソウルフルな歌声へと変わっていく展開で、“Shine Eternally(永遠に輝く)”は南国のようなトロピカルなイントロの曲。“We’re More Than This(私たちはこれ以上ないほど素晴らしい)”では、ヒップホップな歌い方でジャズと合わせている。R&Bやジャズ、ソウル、ファンク、レゲェにトライバルな民族音楽などの黒人音楽を、パワーバイオレンスと交差した楽曲。そこには、アフロ・アメリカンの矜持や、差別や怒り、痛み、悲哀などの感情と、歴史と文化と伝統すべてが走馬燈のように流れていく、内容に仕上がっている。

だがそこにある感情は、怒りや憎悪だけではない。団結や希望についても語られている。“Fakin’ Tha Funk (You Get Did)ファッキン・ザ・ファンク(ユー・ゲット・ディド)”では、<誰もが黒人になりたいと思っているが、実際に黒人になりたいと思っている人はいない>という考えに怒り、“Must I Only Share My Pain(私は自分の痛みだけを共有しなければならない)”では、タイトル通り、自分の痛みを共有するだけでいいのか?と問いかけている。“Créme de Cassis By Alesia Miller & Precious Tucker(クレーム・ド・カシス バイ アレシア・ミラー&プレシャス・タッカー)”では、女性ボーカルの美しい歌声の語りで、なぜ黒人であるが故に差別され苦しまなくてはいけないのか?黒人であるために貧しい生活を強いられなければいけないのかと、黒人であることの痛みや悲惨は状況を、切実に訴えかけている。

そこでは黒人の誇りや劣等感、祝福と呪い、喜びと怒り、愛と憎しみなど、対立する感情の狭間で気持ちが揺れ動いている。白人に痛みを理解してもらうだけで問題は解決するのか?憎しみや対立を超えて一つになれることができるのか?平等な権利を得られるのか?喜びや愛は得られるのか?葛藤し、逡巡しながら、我々リスナーに問いかけている。

フロントマンのAnaiah Lei(アナヤー・レイ)が「俺たち黒人の文化はとても豊かで広大で、そのすべてを説明することができないし、俺たちが経験するすべての困難を通じて、それが何であるか、定義するものではないと語っていた。だからこの作品を作るトピックには、コミュニティーでの団結と愛、俺たち自身の希望を訴えたかった」。と語っていた。この作品では、黒人への差別や虐げられた怒りだけではなく、黒人音楽の美しさとすばらしさ、なにより黒人の魂の素晴らしさに焦点をあてている。まさに『新しい明日』というタイトルが示す通り、黒人の新しい明日という未来への希望が込められた作品なのだ。

音楽的な新しさでも、ハードコア精神の部分でも、まちがいなく今年ベスト1候補の作品だ。