監督:マルコ・ウイルムス
原題「METAL POLITICS TAIWAN」
2018年ドイツ作品 88min
札幌国際短編映画祭 特別上映作品
2018年、マルコ・ウイルムス監督によるドイツで上映された作品。10月13日に札幌国際短編映画祭にて特別上映された。映画は、台湾のブラック・メタルバンドCHTHONIC(ソニック)のボーカリストである、Freddy Lim(フレディー・リム)が、2016年に台湾の立法員の選挙に立候補し、当選した。その後の政治活動を追ったドキュメンタリーである。
いまだ国連に国家として承認されていない台湾。人間の健康と基本的人権を柱としているWHO(世界保健機関)の加盟さえも許されず、欧米社会と同等の民主主義的な権利を得られていない。“ひとつの中国”と主張する中華人民共和国の圧力にあい、国際社会から国家の承認を無視し続けられている。そんな台湾に民主主義運動が勃発したのは、14年3月に学生たちによる立法院(日本の国会議事堂にあたる)を占拠した“ひまわり運動”。若者たちによる学生運動を経て、16年の選挙で民主進歩党が圧勝し、一部民主化が実現した。
ひまわり運動から発生した政党『時代力量』から立候補し、みごと当選をはたしたフレディ・リム。台湾が国際社会に国家と認めてもらうため、民主主義国と同等な自由と平等という権利を得るため、ひまわり運動の代表として、フレディー・リムの代議士の活動が始まった。
映画は、台湾と中国との関係から、中華民国と台湾との対立、台湾民主主義運動の創始者であるナイロン・チェン、ダライ・ラマについてや、アメリカ訪問など、フレディー・リムのルーツや台湾が抱える問題などを中心に話は進んでいく。
驚かされたのは、ロックミュージシャンにありがちな、体制や権力への反発や反抗心が、ほとんどないということ。映画で「抑圧の下にいる人をサポートするのが私の役割」と発言していた通り、自己の考えだけで動いている政治家ではないのだ。自己主張よりも、若者の支持者の総意をくみ取り、政治的な行動に移す。自己満足のために曲を作るのではなく、ファンが喜んでもらえる妥協点を常に模索しながら活動していた音楽活動の経験が、ここで活かされている。庶民派の政治家なのだ。フレディー・リムとは、時代の変化を求める台湾の若者の意見を象徴する存在といえるだろう。
われわれが普段口にする民主主義。だが民主主義とは何かと問われ、しっかり答えられる人は少ない。日本で当たり前な民主主義が、権利を勝ち取るためどれほど困難を要するのか、民主主義によって日本人が手にしている権利とは?本当の意味での人権や平等や自由とは?この映画を通じて民主主義のありがたさが理解できるのだ。現在、改憲勢力が増え、民主主義崩壊の危機が叫ばれている日本。いま改めて民主主義によって得られた権利のありがたさを考え直す必要に迫られている。民主主義の権利を維持し続けていくには何が必要なのか?その答えがこの映画にある。