bedside yoshino (ベッドサイドヨシノ)
『#1』

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bedside yoshino (ベッドサイドヨシノ)

吉野製作所 2010-03-05
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eastern youth(イースタンユース)、ボーカル吉野による初のソロプロジェクト。04年ごろイースタンユースのライヴで、ひっそりと売られていた作品。このころはまだCD-Rのみの販売だったが、現在ではCDに代わり、ジャケットも一新され発売されている。

曲作りから編集、録音にいたるまでの全工程を、自宅内にあるベッドの上で作られた。またCD-Rの複製、封入にいたるまでの作業も自らが行った。徹底したD.I.Yな活動をしている。

 

そこまで手作業にこだわった理由は、D.I.Y精神を取り戻したかったからだろう。近年、プロトゥーズの技術革新によって、安価で高音質のレコーディングが可能になった。それに加え、CDの流通網やインターネットの発達によって、インディーでいながら100万枚近くのセールスを上げることも、もはや絵空事ではなくなった。いまやメジャーに属さなくても、メジャーに匹敵する売り上げを上げることが、実現できる世の中になったのだ。

 

だがその発達によって、インディー本来の良さが失われた。現在、一部の世相ではインディーがカッコいいという風潮がある。その理由は、メジャーでは売り上げをあげるための制約があり、自分たちがやりたい音楽をやれないと思われているから。だが実際はメジャーの選別にもれたC級バンドの隠れ蓑になっている。結果、主義主張や音楽的な実力のないインディーバンドの偽善的な発言が目立ち、くだらないCDが、レコード店に大量に氾濫することとなった。

 

本来のインディースのよさとは、D.I.Yにある。ライヴハウスの物販で、ミュージシャン自らが販売員として立ち、ファンと触れ合い自らのCDを売る。ライブでの音調整から、移動のときの車の運転、すべて自分たちでやるといった姿勢が、インディーズの魅力でもあった。なんの制約も受けず自分のやりたい音楽をやり、信念を貫き、私財を投げ打ってレコードを作る。それを周ったライヴ会場で手渡しでファンに売る。自らの情熱をダイレクトに伝える。やがて小さな波紋が、大きな影響力へと変わっていく。そして音楽シーン全体を変える。それがD. I.Yの魅力であった。本来、パンクとは、そういう活動であった。

 

ベッドサイド吉野とは、レコード会社の宣伝も、流通も頼らない、本来のDIYのやり方で始めたプロジェクトなのだ。大袈裟にいうなら、失われたパンク精神を取り戻す活動といえるだろう。

 

肝心のサウンドだが、エモーショナルなロックナンバーはない。サンプリング音から口笛、ギター、子供用のドラムなどの楽器で、シンプルな音作りを目指している。牧歌的なアコースティックから、心地よい春の陽気のようなインストゥルメンタル、疲れた都市の雑踏を描いているようなアヴァンギャルドノイズなど、じつにバラエティーが豊富。映画「ロト」のサウンド・トラック用に書き下ろされた楽曲を収められたアルバムだが、エモーショナルで荒々しいギターが魅力のイースタン・ユースとは違い、終始、素朴で穏やかだ。

 

そこには、強烈な郷愁感が漂っている。歪んだギターのディストーションが雪国の過酷な冬の状況を思わせ、ハーモニカと口笛の素朴なメロディーが、春の訪れのような雪解けた小川のせせらぎを感じる。まるで失われてしまった故郷の大自然や古きよき時代を想像させる懐かしさだ。

 

たしかにサウンド的には、パンクの荒々しさや攻撃性はない。しかもノスタルジーに浸っている。だがけっして、退化ではない。他人任せで、ひ弱で偽善的になったパンクへの警鐘なのだ。