Further Seems Forever (ファーザー・シームス・フォーエバー)
『Hide Nothing(ハイド・ナッシング)』

ハイド・ナッシングハイド・ナッシング
ファーザー・シームズ・フォーエヴァー

Project-T 2005-02-09
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ボーカルが元センス・フィールドのジョン・バンチに代り、04年に発表された3作目。このメンバーチェンジは大正解。違うバンドと思えるくらい、ガラッと変わった作品に仕上がった。そもそもファーザー・シームス・フォーエバーというバンドは、クリスチャン・パンクというサウンド(演奏)がメインで、ボーカルは二の次であった。それが最初に加入したクリス・ギャラハーというボーカリストが、あまりにも才能豊かであったため、ファーザー・シームス・フォーエバーというバンドの方向性や世界観を、――無意識ではあるが――ボーカルが決めてしまった。2作目以降では、サウンド自体、格段に成長を遂げたが、ボーカルのテンションや声量が不足しているため、迫力のない作品で終わってしまった。そこで目に付けたのが、同時期に解散をしたセンス・フィールドのボーカル、ジョン・バンチだった。彼の果たした役割は、ファーザー・シームス・フォーエバーというバンドを180度変えるくらいインパクトのあるものだった。

 

今作ではメロディーに重点を置いている。前作と比べると、荒々しいギターコードをした曲が少なくなった。クリスチャン音楽からの影響が強かったメロディーが、今作では、童話のようなドラマチックなメロディーに変わった。例えるならマッチ売りの少女のような世界。暗闇にぽっと明かりが灯るような寂しさの中に心温まるメロディーだ。前作の神秘的な中にあった冷たく華やかでキラキラと輝くメロディーではなく、手のひらの小さな温もりのような繊細なメロディーだ。といっても微妙な変化で、サウンド自体、エモをベースにしているし、ミドルテンポの曲ばかりで、さほど変わってはいない。

 

それでも別のバンドになったような劇的に変化した印象を与えている理由は、ボーカルのインパクトにある。ジョンのボーカルスタイルは陰を感じさせる歌声で、憂いと悲哀に満ちている。クリス・ギャラハーのようなエモーショナルな熱さと力強さがない。透明な歌声であることは共通しているが、そこにあるのは、憂いと悲しみだ。まるで運命に抗いながらも、さだめに敗れてしまうような悲しみと憂いだ。あえてクリスのエモーショナルなボーカルスタイルを踏襲せず、ジョンの個性である透明でか細いスタイルのボーカルを貫き通した。その憂いに満ちたジョンの歌声が、サウンドの印象を悲しみに満ちたものに染め上げている。それがこのアルバムを成功させた要因だ。

 

個人的にはこの憂いと悲しみは好きだ。メロディーも綺麗で暖かみがあっていい。だが穿った見方をしてしまうと、ファーザー・シームス・フォーエバーというバンドの個性とは何なのか考えさせられてしまう。たしかにクリスチャンから影響を受けたメロディーも歌詞も健在だ。バックメンバーはジョンの歌い方に合わせ曲を作ったようには思えないし、彼らがクリスチャン・パンクであることを貫き通している。だが意図していなくても、結果、ボーカルの個性によって、ファーザー・シームス・フォーエバーの世界観が180度変わってしまった。今作で顕著なのは、ジョンのボーカルがエモーショナルな部分を徹底的に排除したため、憂いと悲しみに満ち、ファーザー・シームス・フォーエバーの世界観ががらりと塗り替えられてしまった。憂いと悲しみに満ちた美しさを手に入れた代償に、ロックの爽快感と熱さという彼らの個性は失われてしまったのだ。ただジョンのボーカルも魅力的だし、これはいい作品であることに間違いはない。