THRICE(スライス)
『VHEISSU(ヴィースー)』

ヴィースーヴィースー
スライス

ユニバーサル インターナショナル 2005-11-02
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劇的に変化した5作目にして問題作。スライスの個性であるメタルとハードコアの折衷スタイルと、激しい衝動と熱さがなくなった。そのかわりに前作でもみせたプログレ的アプローチがさらに深まり、終始ゆっくりした曲で、たゆたうように穏やかさと美しい雰囲気がアルバムを支配している。もはや初期衝動が完全に失われ、技巧を極めることにバンドのベクトルが向かっているのが理解できる。

 

といってもけっして悪い作品ではない。冷たく繊細なギターフレーズに、暴力的なスクリーモヴォイスが絡んでいく曲からは、まるで映画レッドドラゴンのような特異な美意識を感じる。“さくらさくら”のフレーズに代表される“ミュージック・ボックス”ように、儚く切ない曲もあり、胸が詰まるような寂しさを覚える。特異な美意識を感じる美しいサウンドと、儚さを感じる寂寥感がなんともいえないほどいい。自分たちの持ち味を捨ててまで新しいことに果敢に挑んだ姿勢も、評価が出来る。でもなんだろ。この精神世界に入り込んでしまったような暗さは。まるでどこの世界ともつながっていないような孤立と寂寥を感じる。そのへんがちょっと気になるところ。