ジ・アルケミー・インデッIII&IV スライス インディーズ・メーカー 2008-04-16 |
古代のギリシア哲学、地、水、風、火の4代元素をテーマにしたコンセプトアルバム第二弾。7作目は、風の章と地の章からなる2枚組み。“風の章”は、モグワイやバトルズなどのポストロックやマスロックなどのサウンドアプローチに、極力音数を減らした素朴で平素なそっけないサウンドが魅力。9.11のテロで空から火炎に包まれたビルが降ってくる恐怖や、太陽めがけて飛んでいくギリシャ神話イカロスの翼など、頂点へ目指していく人間やアメリカ国家の凋落や驕り、傲慢などをテーマに掲げている。
ポロンと爪弾くメロディーギターに、寂寥感に満ちたキーボードの音が絡むサウンドは、独特の静けさに満ちている。そして気だるく憂鬱なトーンのボーカルの歌声。そこにはキャンプファイヤで揺らめく炎と漆黒の暗闇のなかで静かに淡々と物語を語るときような、厳かな静寂さがあり、教訓を静かに語り伝えられるような気分になる。
たいする“地(地球)の章”は、アコースティックギターに、寂しげなピアノが絡む展開。ボブ・ディランなどのフォークからも影響を感じるが、ここでは07年に発表されたボーカル、ダスティン・ケンスルーのアコースティックソロをより進化させている。歌詞も権力を手中に治めた人間ほど愛を知らないとか、ライオンに襲われる人間といった内容で、大地や自然の脅威、大規模な人口を有する都市の人間の動きのなかでは、個人はあがなうことが出来ないし、無力だということをテーマにしている。
変拍子を使った変則ハードコアバンドFRODUSのアコースティック・カヴァーもあり、“いとしのレイラ”のような70年代の匂いを感じる曲もあれば、アルゼンチン民謡っぽい曲もある。ここでもじつに新しいサウンドを展開している。
4作を通じて、人類の犯した過ちや愚かさについてテーマにしている。スライスは本来ハードコアコミュニティーの出身のバンドだ。大々的にメタルを取り入れたからメタルコアと呼ばれるシーンに属していた。むかしから戦争批判やアイデンティティーのクライシスといったシリアスな問題を取り上げ、真正面から向き合ってきたバンドなのだ。そういった意味ではアティテュードに揺らぎはないし、ハードコアスピリットも失われていない。職人のようにひとつの技術を追求するまじめさに変わりはない。だから地、水、風、火を音で表現しようとする方向にサウンドが向かって行ったのもなんとなく理解できる。ひとつのアートとして捉えるのなら、けっして悪い作品ではない。
でもこのサウンドの変わりようは、むかしからのファンを置いてきぼりにしている。まるでむかし仲のよかった友達が、彼女が出来て急に大人になったときのような、寂しさを感じる。ああ、スライスよ、あなたはどこまで遠くに行ってしまうのか。