Beggars (Dig) Thrice Vagrant Records 2009-09-14 |
もはやハードコアやメタルからの影響はない。異次元へ飛躍してしまったスライスの8作目。今作は前作“地の章”のサウンドアプローチを、さらに推し進めている。いうならホット・ウォーター・ミュージックやジミー・イート・ワールドが途中で放棄したサウンドスタイルに、スライス独自のアイデアをとりこんだ。ホット・ウォーター・ミュージックの分厚いギターサウンドや、ドラッグ患者のような病的な男くささを極力削ぎ落とし、逆に一定のリズムでループするベースやリズムギターをさらに強調している。
<ポーン>と、もの悲しく響くギターの反復でメロディーを構築。そこには黄色い枯葉が舞い散る秋景色のような憂愁さと、思慮深い切なさがある。そしてソウルからの影響を感じさせるボーカル歌いまわしが加わり、70年代のようなノスタルジックな雰囲気が漂っている。 ジミー・イート・ワールドの『クラリティー』以降、ロックサウンドとしての進化が止まってしまったエモを、古きよき物を加えることによって、さらにネクストレベルとヘと押し上げた。インディーロック界に、新しいスタイルを提示した。 個人的には、怖さを知りながら困難に立ち向かっていくような気迫と熱さと荒々しさがみなぎった初期2枚が最高傑作という気持ちは変わらない。だが、強い意志が揺らぐときにみせる切なさや憂鬱さに満ちたこの作品も好きだ。