New York Hardcoreニューヨークハードコア・シーンについて
(1980-1990)完全版PART-1

𝄃ニューヨーク・ハードコア第二世代の始まり

そんな状況下で、ニューヨーク・ハードコアの始まりとされるバンドが登場した──Agnostic Front(アグノスティック・フロント)である。1983年にリリースされたEP『United Blood(ユナイテッド・ブラッド)』は、SS Decontrol(SSデコントロール)やThe Misguided(ザ・ミスガイデッド)といったノイジーなギターを軸とするバンドの流れを発展させ、ニューヨーク・ハードコアの基礎を築いた作品だ。 メンバー全員がスキンヘッドだったAgnostic Front(アグノスティック・フロント)は、それまでポリティカルで中間層が多かったニューヨークのシーンを、ワーキング・クラスを中心とした暴力的で荒々しいシーンへと一変させた。彼らの登場によって、サウンド、アティテュード、思想、そして精神性のすべてが180度転換されたのである。 Agnostic Front(アグノスティック・フロント)が「ニューヨーク・ハードコア・シーンを創った」と語られる所以は、まさにその劇的な変化にある。
 

Agnostic Front(アグノスティック・フロント)


出典:Nuclear Blast Records

Cause for Alarm(コーズ・フォー・アラーム)は、Discharge(ディスチャージ)の影響を強く受けた、ノイジーでスピーディーな2コード/2ビートのハードコア・バンドである。Agnostic Front(アグノスティック・フロント)と並び、ニューヨーク初期ハードコア・シーンにおいて大きな影響力を持っていた。初期の彼らはパーティー・バンド的な性格を持っていたが、Rob Kabula(ロブ・カブラ)とAlex Kinon(アレックス・キノン)がサンフランシスコでMDC(ミリオン・デッド・コップ)と出会い、ヒッピー的な政治思想に深く関わるようになったことで、EP『Cause for Alarm(コーズ・フォー・アラーム)』を発表する頃には、シリアスな政治路線へと転換していた。ヴォーカルのKeith Burkhardt(キース・ブルクハルト)はクリシュナ教徒であり、スピリチュアルな歌詞を志向していたが、左翼的な政治姿勢を貫くRob Kabula(ロブ・カブラ)とAlex Kinon(アレックス・キノン)との間に思想的な対立が生じ、結果的にバンドは解散に至った。その後、1995年から再び活動を開始している。なお、Agnostic Frontのセカンド・アルバム『Cause for Alarm(コーズ・フォー・アラーム)』よりも、さきにこの名前を使用している。
 

Cause for Alarm(コーズ・フォー・アラーム)


出典:facebook

Antidote(アンチドート)は、Bad Brains(バッド・ブレインズ)とDischarge(ディスチャージ)を足して二で割ったような、エネルギッシュでノイジー、そしてスピーディーなハードコア・バンドである。張り裂けんばかりの理念に燃えた絶叫ヴォーカルが印象的で、強烈なメッセージを放っていた。
「戦争で死ぬ──それが生きる目的なのか」「心は憎しみと貪欲で満たされ、自分の欲求に気づく暇もないナチスの若者たち」といった歌詞には、戦争を命令する権力者に支配された狂った世界の中で、希望と団結を求めて叫び、苦悩する若者たちの心情が込められていた。彼らは、音楽によって世の中を良い方向へ変えられるという理想に燃えていたのである。
しかし、最終的にバンドはただのロックへと変貌を遂げ、かつての情熱を失い、解散に至った。
 

Antidote(アンチドート)


出典:NO ECHO

ニューヨーク・ハードコアを語るうえで、Murphy’s Law(マーフィーズ・ロー)は欠かせない存在である。初期ニューヨーク・ハードコアを基盤に、ファンク、ロックンロール、レゲエ、スカ、ダブなどの要素を取り込み、モッシュ・テンポのハードコア・アンセムへと巧みに融合させた。彼らは「Fun(ファン)」「Beer(ビール)」「Care Bear(ケア・ベア)」といったテーマを掲げ、飲酒や喫煙、パーティーの高揚感を前面に押し出すことで、社会政治的でワーキング・クラスの暴力性を煽るシリアスなニューヨーク・ハードコア・バンドとは一線を画していた。代表曲「Harder Than Who(ハーダー・ザン・フー)」では、シーンを支配する無神経な攻撃性や過剰な競争心を真っ向から否定。そのアウトサイダー的なパンクロック精神は、Gorilla Biscuits(ゴリラ・ビスケッツ)やNo Redeeming Social Value(ノー・リディーミング・ソーシャル・ヴァリュー)といった後続のバンドに多大な影響を与えた。なお、ヴォーカルのJimmy G(ジミー・G)は、Agnostic Front(アグノスティック・フロント)のギタリストであり、兄でもあるVinnie Stigma(ヴィニー・スティグマ)とともに、タトゥーショップ「New York Hardcore Tattoos(ニューヨーク・ハードコア・タトゥーズ)」を共同経営している。
 

Murphy’s Law(マーフィーズ・ロー)



ニューヨーク・ハードコア・シーンを代表するバンドのひとつであるCro-Mags(クロマグス)は、Agnostic Front(アグノスティック・フロント)以上に、力強く凶暴なハードコアを展開していた。超高速な楽曲からスローテンポでグルーヴィーな曲まで、幅広いスタイルを持つそのサウンドは、Cro-Magsならではの個性だった。
路上生活、監禁、里親からの虐待といった過酷な環境で育った、全盛期のヴォーカリストJohn Joseph(ジョン・ジョセフ)は、ストリートでの正義や生き延びるためのサバイバルについて歌った。
彼らのファースト・アルバム『Age of Quarrel(エイジ・オブ・クアレル)』のタイトルは、クリシュナ教の発祥地であるインドのサンスクリット語で「カリ・ユガ(争いの時代)」を意味し、「喧嘩と偽善の幻想に満ちた時代」という思想を反映している。
Cro-Magsの暴力性とストリート感覚は、ニューヨーク・ハードコアのアティテュードそのものを形づくった。
 

Cro-Mags(クロマグス)


出典:CRO-MAGS DEMO