New York Hardcoreニューヨークハードコア・シーンについて
(1980-1990)完全版PART-2

𝄃クロスオーバー・スラッシュのバンドたち

ニューヨーク・クロスオーバー・スラッシュ・シーンの特徴のひとつは、Nuclear Assault(ニュークリア・アソルト)、Carnivore(カーニヴォア)、Whiplash(ウィップラッシュ)といったバンドがメタル・シーンから登場し、ハードコアへとクロスオーバーしていった点にある。なかでもCrumbsuckers(クラムサッカーズ)の存在は、ひときわ異彩を放っていた。
Crumbsuckers(クラムサッカーズ)はハードコア出身でありながら、速弾きのスタイルに加え、メタルに近いギター・サウンドを鳴らしていた。その独自性がニューヨーク・ハードコアの様相を大きく変え、クロスオーバー・スラッシュ・シーンの形成に大きく寄与した。Agnostic Front(アグノスティック・フロント)や『Cause for Alarm(コーズ・フォー・アラーム)』との親交もあり、ハードコア・シーンへの参加が可能となり、A7やCBGBといったライヴハウスで演奏する機会を得たという。
 

Crumbsuckers(クラムサッカーズ)のデビュー作『Life of Dreams(ライフ・オブ・ドリームス)』は、ハードコアとメタルのバランスが絶妙に取れた傑作だった。しかし、バンドは最終的によりスラッシュ・メタル寄りの方向性を打ち出した2ndアルバム『Beast on My Back(ビースト・オン・マイ・バック)』によって、メタル・ファンとハードコア・ファンの間で評価が分かれ、シーン内で二分化が生じた。さらに、ツアー直前にヴォーカルのChris Notaro(クリス・ノタロ)が脱退したことも重なり、バンドは解散に至った。
 

Crumbsuckers(クラムサッカーズ)


出典://Parallel

Carnivore(カーニヴォア)は、ブルックリン出身のアメリカのクロスオーバー・スラッシュ・バンドである。初期には、Black Sabbath(ブラック・サバス)や初期の Judas Priest(ジューダス・プリースト)から影響を受け、ドゥーム・メタルの要素を取り入れたスピード・メタルを演奏していた。やがてニューヨーク・ハードコア・シーンのバンドと共演するようになり、クロスオーバー・スラッシュ・シーンの一翼を担う存在へと成長。音楽性は、スラッシュ・メタル、ドゥーム・メタル、オールドスクール・ハードコアの境界を跨ぐクロスオーバー・スタイルへと進化した。
彼らのサウンドは、スピードと激しさを、スローで破壊的なリフやブレイクダウンと融合させた点に特徴がある。

歌詞は、男性優位主義や人種差別的な内容で悪名高く、しばしば物議を醸してきた。たとえば「Race War(人種戦争)」では、人種差別主義者の視点から描かれており、当時のブルックリンにおける人種間暴力への批評とも受け取れる。また、男尊女卑的な男性優位主義をテーマにした「Male Supremacy(男性優位主義)」や「Sex and Violence(セックスと暴力)」、ヒトラーを称賛するかのような「Jesus Hitler(ジーザス・ヒットラー)」、架空の世界大戦を描いた「World Wars III and IV(第三次および第四次世界大戦)」や「Thermonuclear Warrior(水素爆弾兵士)」、キリスト教を否定的に扱った「Angry Neurotic Catholics(怒れる神経質なカトリック教徒)」や「God Is Dead(神は死んだ)」など、反道徳的で挑発的な内容が多く、リスナーに不快感や衝撃を与えることを意図したかのような表現が目立つ。

破れた服とホッケー用具にスパイクを付けた戦士の格好で、聴くものすべてを敵に回し、独自の路線を突き進んでいったCarnivore(カーニヴォア)。物議を醸すバンドであったが、1990年代になると、彼らのクロスオーバー・スタイルや歌詞は、Biohazard(バイオハザード)によって、新しい要素を加え、さらに進化していく。
 

Carnivore(カーニヴォア)


出典:Facebook_The New York Hardcore Chronicles Page

Leeway(リーウェイ)は、クロスオーバー・スラッシュ・シーンの中でも、特にメタル色の強いバンドである。ハードコア・シーンから登場した彼らは、ハイトーン気味のヴォーカルや、Metallica(メタリカ)、Anthrax(アンスラックス)、Megadeth(メガデス)からの影響が色濃いギターリフはスラッシュ・メタルの要素を持つが、そこにラップやファンクの要素を取り入れ、ハードコアの曲調の中に巧みに融合させている。

スポーツウェアに身を包み、ラッパーのようなB-Boyスタイルのニューヨーク・ストリート・ファッションをまとった彼らは、ハードコア、メタル、ラップ、ファンクといった多様な要素を自在に組み合わせ、独自の音楽世界を築き上げた。Leeway(リーウェイ)は、ニューヨーク特有のグルーヴィーなハードコアの先駆者的存在であり、ニューヨーク・ハードコアの概念そのものを根底から塗り替えたバンドである。
 

Leeway(リーウェイ)


出典:IDIOTEQ

Nuclear Assault(ニュークリア・アソルト)は、1984年にAnthrax(アンスラックス)の元ベーシストであるDan Lilker(ダン・ルリカ)と、同じくAnthrax(アンスラックス)創成期に在籍していたヴォーカル兼ギタリストのJohn Connelly(ジョン・コネリー)によって結成された。Dan Lilker(ダン・ルリカ)は、当時のAnthrax(アンスラックス)のヴォーカリストであるNeil Turbin(ニール・タービン)との音楽的な確執によりバンドを脱退し、より攻撃的な音楽スタイルを追求することを決意。こうして、Nuclear Assault(ニュークリア・アソルトが誕生した。

1986年に発表されたデビュー作『Game Over(ゲーム・オーバー)』では、高速リフと鋭いドラムによる、怒りと疾走感に満ちたアグレッシブなスラッシュ・メタルを展開し、クロスオーバー・スラッシュ・シーンに絶大なインパクトを与えた。荒削りながらも圧倒的な勢いを持ち、核戦争、政治腐敗、環境問題などをテーマにした社会批判的な歌詞によって、スラッシュ・メタルのサウンドとハードコアのメッセージ性を見事に融合させている。

音楽性・歌詞ともに一層深化した1988年の2ndアルバム『Survive(サバイバル)』を経て、1989年に発表された3rdアルバム『Handle With Care(ハンドル・ウィズ・ケア)』では、ヘヴィでメロディックなギターと超高速のスラッシュ・メタルに、ノイジーでエネルギッシュなハードコアを融合。「Torture Tactics(トゥーチャー・タクティクス)」では、ナチスの愚かさを皮肉とユーモアを交えて嘲笑的に描き、鋭い社会・政治批判を展開している。バンドの最高傑作と称されることも多い作品である。

なお、1992年にDan Lilkerはバンドを脱退し、後にグラインドコア・バンドBrutal Truth(ブルータル・トゥルース)を結成した。
 

Nuclear Assault(ニュークリア・アソルト)


出典:REVOLVER

Ludichrist(ルディクリスト)は、スラッシュメタルに間奏やギターソロ、Oi、ジャズ、ブルース、ヒップホップの要素、そしてニューヨーク・ハードコアを融合させたクロスオーバー・バンドである。ミドルテンポから急激に加速する展開や、超高速リフからスローテンポへと落ちる構成など、様々なジャンルを掛け合わせることで、クロスオーバー・スラッシュの中でも変則的なリズムを特徴とする独自のサウンドスタイルを築いた。
ドラマーのDave Miranda(デイヴ・ミランダ)は、Ludichristを「パンクとメタルの両方を融合させながら、どちらの陣営にも属さないバンド」と評している。

1988年にセカンド・アルバム『Powertrip(パワートリップ)』を発表した後、バンドは解散。ヴォーカルのTommy Christ(トミー・クライスト)、ギターのGlen Cummings(グレン・カミングス)、ギターのPaul Nieder(ポール・ニーダー)の3人は、より自由なスタイルを求めてScatterbrain(スキャッタブレイン)を結成した。
 

Ludichrist(ルディクリスト)


出典:Discogs