Shutdown(シャットダウン)
1994 年にブルックリンで結成された Shutdown(シャットダウン)は、新世代のオールドスクール・ハードコアを体現するバンドである。ブルックリン・ハードコアのバンドには珍しく、メタルからの影響をほとんど受けておらず、Warzone(ウォーゾーン)、Cro-Mags(クロマグス)、Gorilla Biscuits(ゴリラ・ビツケッツ)の流れを継ぐ“ポジティブ・ハードコア”を掲げる存在として知られている。ストレートエッジではないものの、ユースクルー的な価値観や精神性を色濃く持つ点が特徴だ。
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サウンド面では、ストレートで疾走感のあるギターリフが中心にあり、ニューヨーク・ハードコア特有の重低音よりもスピードと切れ味を優先している。Madball(マッドボール)のような太さはなく、むしろ Agnostic Front(アグノスティック・フロント)後期に近い軽快さを持つ。ドラムは 2 ビートと高速パートを軸に展開し、若さとストリート感を帯びたハイトーンのシャウトが全体を引き締める。
メロディラインは Bold(ボールド)や Gorilla Biscuits(ゴリラ・ビツケッツ)に通じる ユースクルーのキャッチーさをニューヨーク・ハードコアに落とし込んだもので、拳を上げやすいフックとシンガロング性が際立つ。ブレイクダウンも重さより勢いを重視しており、Madball(マッドボール)系の荒々しさとユースクルーのポジティブなスピード感を併せ持つ、1990年代ニューヨーク・ハードコアの中でも稀有なハイブリッド・スタイルを形成している。
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歌詞のテーマは、裏切らない、支え合う、一緒に立ち向かうといったストリートで生きる若者同士の連帯感や、シーンへの忠誠、コミュニティへの誇りといったニューヨーク・ハードコアの伝統的価値観が中心にある。ただしMadball(マッドボール)のような“ファミリー”感とは異なり、ユースクルー的なポジティブさが混ざっている点が Shutdown(シャットダウン)の個性だ。さらに、他人に流されない、自分の価値観を守る、嘘や偽りを拒む、逆境でも折れないといった自己の信念を貫く姿勢が強調される。ストリートの厳しさを描きつつも悲観に陥らず、“乗り越える”“前に進む”“過去の失敗を糧にする”といった逆境克服のメッセージが一貫している。
Shutdown(シャットダウン)はストレートエッジ・バンドではないが、誠実さ、自己管理、他者へのリスペクト、嘘や裏切りへの拒絶といったユースクルー的倫理観が明確に表れている。ストリートの現実を知りながらも前向きに生き抜こうとする若者の決意を描き、Madball(マッドボール)ほど荒々しくもなく、ユースクルーほどクリーンでもない。その中間に位置する“ポジティブ・ストリート・ニューヨーク・ハードコア”こそが、Shutdown(シャットダウン)の最大の魅力である。
Inhuman(インヒューマン)
1995 年に結成された Inhuman(インヒューマン)は、ニューヨーク・ハードコアの中でも、クロスオーバー・スラッシュとオールドスクールHCの流れを継承しつつ、荒々しいストリート感とメタリックな重さを併せ持つ存在である。元 Confusion(コンフュージョン) のベーシストである Mike Scondotto(マイク・スコンドット)がフロントマンとして牽引し、そのキャリアがバンドの方向性に強く影響を与えている。
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サウンドは Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)、Cro-Mags(クロマグス)、Leeway(リーウェイ)などの影響が色濃く、Mike(マイク)の存在感あるヴォーカルは Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)の Lou Koller(ルー・コーラー)を思わせる太く荒れたシャウトが特徴。Confusion(コンフュージョン)で培われたメタリックなアプローチも随所に見られ、2 分前後のショートチューンを中心に、ニューヨーク・ハードコアらしいスピード感とモッシーなリフが展開される。Negative Approach(ネガティヴ・アプローチ)のような短く荒々しい曲構成に、Cro-Mags(クロマグス)の『The Age of Quarrel(ザ・エイジ・オブ・クォレル)』のスラッシーなリフ、Leeway(リーウェイ)のメタリックなグルーヴ、Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)のコール&レスポンス的ヴォーカルが融合し、オールドスクール・ハードコアとクロスオーバー・スラッシュが見事にブレンドされたスタイルを確立している。さらに、Biohazard(バイオハザード)や Madball(マッドボール)と同様、ブルックリン特有のストリート感や生活のリアリティが強く反映されている点も特徴だ。
歌詞は、Confusion(コンフュージョン) 時代から続く反権力・反偽善の姿勢に加え、ニューヨーク・ハードコア伝統の個人の尊厳や自己決定、そしてブルックリンの貧困・治安・暴力と隣り合わせの生活から生まれる“生き残り”の感覚が軸となる。これらにコミュニティ意識が絡み合うことで、Inhuman(インヒューマン)は「ストレート・ハードコアの形をしたブルックリン・ハードコア」という独自の立ち位置を築いた。
Confusion(コンフュージョン)の暗黒性を継承しつつ、それをニューヨーク・ハードコア的な“前に進むための怒り”へと昇華させた点こそ、Inhuman(インヒューマン)の核心である。
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Inhuman(インヒューマン)の果たした役割は大きい。ブルックリンの“デスコア”と呼ばれた時代の Confusion(コンフュージョン)が持っていた暗黒メタリック・ハードコアの重さと思想を受け継ぎながら、Inhuman(インヒューマン)は“ニューヨーク・ハードコアの原点”を再提示した。これにより 2000 年代のニューヨーク・ハードコアは、過度にメタリック化することなく、ストリート・ハードコアの芯を保ったまま多様化することができた。ブルックリンはマンハッタンやクイーンズとは異なる、独特の“重さ・暗さ・ストリート感”を持つ地域であり、Confusion(コンフュージョン)と Inhuman(インヒューマン)は1990 年代以降のブルックリン・ハードコアをつなぐ重要な橋渡し役として位置づけられるバンドなのだ。