BEYOND THE WIRE(ビヨンド・ザ・ワイヤー) (2025)

ベトナムのEmpathize(エンパサイズ)、インドネシアのExtincted(エクスティンクテッド)、シンガポールのHex(ヘックス)、マレーシアのKrusty(クラスティ)、フィリピンのNo remorse(ノー・レモース)、東南アジアの5バンドによるスプリット・アルバム。

東南アジア各国のハードコア・バンドたちが結託し、自国の憂いた現実と政治的レジスタンスをコンセプトに発表されたスプリット。各バンドたちが独自の自国色を持ちながらも、共通のDIY精神で、アンダーグランド・シーンで結びついている。政府への賄賂や不正への怒り、抑圧などを、国境を越えたハードコア・コミュニティーの団結で、fight back(抵抗)していく。

『BEYOND THE WIRE(ビヨンド・ザ・ワイヤー)』の歌詞は、植民地時代の後遺症、国家による暴力、経済的絶望、文化的アイデンティティなどがテーマになっている。

1曲目の「SEA HC」はベトナムのEmpathize(エンパサイズ)の曲。地元の雄District 105(ディストリクト 105)やニューヨークのPain of Truth(ペイン・オブ・トゥース)を進化させたミドルテンポのメタリック・ハードコアをベースに、スペイシーなギターから、ブラストビートなどを融合し、ドスの効いた迫力ある怒声ヴォーカルが、怒りと憤りを歌っていく。

歌詞は「これが南東の血だ。炎の中で生まれ、戦いで育った。植民地化され、虐げられ、死に放り出された。」と、植民地化された経験や、共産主義と民主主とに分断化された戦争の対する怒りを歌い、団結する大切さを歌っている。最先端のニューヨーク・ハードコアとプログ烈士ヴなメロディーが合わさった新世代のハードコア。

2曲目の「RELAYER OF TORMENTS(リレイヤー・オブ・トルメンツ)」はインドネシアのExtincted(エクスティンクテッド)の曲。ベルギーのH8000シーンに影響を受けたメタルコアを中心に、クラストの激しいギターから、フューリーエッジのギターを経て、雪崩のようなブラストビーに流れ込む展開。

歌詞は「苦痛の伝達者~鎖に縛られ、囁きが這う場所、全ての重み、痛みを背負え」と、地獄のような苦しみを歌っている。権威主義政権が長く続き、弾圧され表現の自由がなかったインドネシアの地獄のような世界と、H8000サウンドがブレンドされたカタルシスに満ちたインドネシア独特のメタルコア。

3曲目の「Your Defeat(ユア・ディフィート)」は、シンガポールのHex(ヘックス)の曲。デスメタルとメタリック・ハードコアがブレンドされたヘヴィーサウンドに、爆発音のようなブレイクダウンとビートダウンに、荒々しくノイジーで重い金属音のギター交じり合うハイブリットなハードコア。

歌詞は「君は戦争を望んだ、私はここに立っている。もう手を貸すことはできない。私の血管には毒のような憎しみが流れている。慈悲はない 運命を受け入れろ」と、戦争になった時に感じる内面の葛藤と社会崩壊がテーマになっている。この作品のなかで、一番ヘヴィーで重く、演奏技術のあるデスメタリック・ハードコア。ナパーム弾が降り落ちる戦争時のような迫力がすごい。

4曲目の「STAND YOUR GROUND(スタンド・ユア・グラウンド)」は、マレーシアのKrusty(クラスティ)の曲。Terror(テラー)を彷彿とさせる00年代ハードコアで、スピーディーなハードコアに、メタルコアのリフからビートダウンのベースなど、フレーズが目まぐるしく変わる展開。シンプルながらも複雑なテクニックが入れ込まれたサウンド。

歌詞は「現実からすべてのゴミを捨て、より良い社会を作ろう。 エゴを捨て、自分自身への共感を呼び起こそう。 心を決め、意図を決め、根源に忠実でいよう。自分の立場を貫こう。」と、個人の自由と自己表現という信念を貫き、既存の政治体制や権威に反抗し、立ち向かっていく反骨精神にあふれたハードコア。

5曲目の「NO REMORSE(ノー・リモース)」は、フィリピンのNo remorse(ノー・レモース)の曲。90年代のグルーヴィーなニューヨーク・ハードコアに、ビートダウン・ハードコアを加え、ヘヴィーにノイジーに進化させた。

歌詞は「人々が死ぬ。また一つ命が奪われる。 終わりのない苦しみ。繰り返される悪循環。 正義は否定される。貪欲と権力。」と、賄賂と不正と犯罪がはびこるフィリピン社会の現状を歌っている。仲間が殺され、自分が生き抜くには、犯罪を回避する知力が必要と、リアリティーのある生々しい歌詞がすごい。

90年代から00年代、最先端のハードコアを追求しているバンドまで、バラエティ豊か。どのバンドも、技術力が高く、いろいろなハードコアを聴き込み、各国の国民性と結びついたオリジナリティがある。なにより東南アジア各国の政治状況への反抗と怒りを歌った歌詞には、Discharge(ディスチャージ)やCrass(クラス)から受け継がれてきたパンク/ハードコア精神を感じる。政治的な怒りと反抗を信念に、東南アジア・ハードコア・コミュニティーの団結が素晴らしい。東南アジアのパンク/ハードコア精神のアイデンティティを提示した、スプリットなのだ。