AMERICAN FALL [CD] ANTI-FLAG SPINEFARM RECORDS 2017-11-02 |
まぎれもなく彼らが現在のポリティカル・パンク・ハードコアの代表だろう。ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のパンクバンドの新作は、初期のころから一貫してポリティカルな姿勢を貫き、反戦運動、反帝国主義、階級闘争、人権擁護など、労働者階級の立場に立ち、強者を優遇する政権批判をする活動を続けてきた。とくに02年発表の『Mobilize(モビライズ)』では、911の報復戦争をするブッシュ政権をやり玉に挙げ、戦争や死亡者を出さない平和的な解決を主張していた。争いごとの根源である宗教問題や人種差別、貧富の差という垣根を超え、団結を目指す。そんな理念を訴えてきたバンドなのだ。
いままで彼らは、メジャーでのリリースやEP、コンピレーション・アルバムなどを含め、過去に39もの作品を発表している。だが全作品を通してポリティカルな姿勢が貫かれている。彼らのサウンドは、典型的なメロディック・パンクだ。だが細部ではいろいろなものを取り入れている。ポップでメロディックな曲から、熱くヘヴィーでタイトなハードコアな曲など、感情のふり幅も広く、パンクだけに限っては、狭く深くいろいろなものを取り入れている。今作でもランシドのようなご機嫌なスカナンバーなど、新しいタイプの曲がある。だが持ち前のポップでさわやかなメロディック・パンク・サウンドは健在だし、メロディーフレーズを強調した部分は変わっていない。
オリジナルアルバムとしては10作目となる今作では、トランプ大統領を生んだ保守的で自己中心的なアメリカ国民への批判と、トランプが掲げる人種差別や偏見への抗議、新自由主義が生んだ貧富の格差への非難など、アメリカの社会問題がテーマになっている。だがそのわりには、シリアスさや怒りといった感情は感じられない。総じてポップでさわやかだ。その理由は、おそらく怒りよりも、虐げられた者が団結して悪い状況を変えていこうとする集団の力を重視しているからではないか。聴いて鼓舞される感情は、団結心を喚起し、体制に立ち向かっていくような勇気。あくまでも一人での戦いでなく集団での戦いなのだ。アメリカにはトランプに代表される自己中心的な集団もあれば、オバマ前大統領のように世界平和や環境保全、人種平等など世界秩序を理想とする集団も同じ数だけいる。光と影のような両面性がある。それがアメリカという国の特徴なのだ。だから反対側が劣勢に立たされている現在、なんとか盛り上げ数を増やしていく必要があるのだ。そういう意図があって、人々が親しみやすいようにポップに作られている印象を感じる。月並みな表現になってしまうが、アメリカでも表現の弾圧や規制が始まった昨今、彼らはブレることなく一貫して信念を貫いている。その姿勢には頭が下がる思いだ。ものすごく価値のある作品なのだ。