BAD RELIGION(バッドレリジョン)
『Christmas Songs(クリスマス・ソングス)』

クリスマス・ソングスクリスマス・ソングス
バッド・レリジョン

SMJ 2013-10-29
売り上げランキング : 304943

Amazonで詳しく見る by G-Tools

13年に発表された9曲入りのミニアルバム。8曲はクリスマスソングのカヴァーで、残り1曲は“アメリカン・ジーザス”のアンディ・ウォレス、リミックス。

 

バッド・レリジョンのいうバンド名の由来は、悪い宗教。いうならアンチ・キリスタンというスタンスを掲げたバンドだ。そんな反体制側にいるバッドレリジョンが、なぜクリスマス・ソングをカヴァーしたのかといえば、メロディック・パンク・バンドたちがアメリカン・ポップスや80年代ロックなどをカヴァーしているPUNK GOESシリーズのように、ただ純粋にカヴァーを楽しんでいる。ここではとくに反体制的な姿勢はうかがえず、クリスマスという祝祭的なイベントを、ただ純粋に祝い楽しんでいるようだ。とくに深い意味はなさそうだ。

 

ここでカヴァーしている曲は、1曲目の“天には栄え”は、イギリス四大賛美歌のひとつとして知られる曲。2曲目の“神のみ子は今宵しも”は、イングランド・カトリック教会で歌われている賛美歌。3曲目の“久しく待ちにし主よとく来たりて”は、9世紀にラテン語聖歌。4曲目の“ホワイト・クリスマス”は、ビング・クロスビーによって歌われ有名になったクリスマス・ソング。5曲目の“リトル・ドラマー・ボーイ”は、1950年代にアメリカで大ヒットを記録したクリスマス・ソング。6曲目の“世の人忘るな”は、97年にメジャーレーベル、アトランティックからプロモーション用に配られた『ホーリディー・サンプラー』にも収録されていた曲で、1843年にチャールズ・ディケンズによって歌われたクリスマス・ソング。7曲目の“御使いうたいて”は、1865年にウイリアム・チャタートン・ディックスによって歌われたクリスマス・ソング。8曲目の“荒野の果てに”は、1862年にジェイムズ・チャドウィックによってアメリカで歌われたクリスマス・ソング。そして最後の9曲目の“アメリカン・ジーザス”は、93年に7枚目のアルバムとしてリリースされた『レシピ・トゥ・ヘイト』に収録されたバッド・レリジョンのオリジナル曲。ここに収録されている曲は、アンディ・ウォレスによってリミックスされたシングル『アメリカン・ジーザス』のプロモCDに収録されていたヴァージョン。ここにはひとりぼっちの寂しく悲しいクリスマスといった曲はない。どの曲も楽しいクリスマスを喚起させる。

 

全曲クリスマスソングのパンクバージョンという感じで、アレンジは、バッド・レリジョンの代名詞である2ビートのスピーディーなメロディック・ハードコアではなく、8ビートで荒々しいノイズギターのラモーンズのようなアレンジがなされている。しかもバッド・レリジョン特有のアグレッシヴな衝動や社会に対する攻撃性はない。わざとスピーディーでノイジーにすることで、クリスマスを小ばかにして楽しんでいるような印象を受ける。

 

やはり最後は、バッド・レリジョンらしさを出したかったから、“アメリカン・ジーザス”のレアヴァージョンを収録したのだろう。アメリカン・ジーザスとは、アメリカのグローバル企業のことを神と隠喩で呼び、世界経済を支配することへの非難と、世界の富を独占し、格差を作り出すことへの警告に満ちた内容が歌われている。シリアスな曲ではあるが、ここではおまけという意味合いが強い。

 

もしかしたらクリスマスという誰もが楽しいと思うイベントが、グローバル企業によって、貧富の格差が進み、既得権益しか楽しめなくなる可能性を秘めているということを伝えたかったのかもしれない。そんな隠喩的な意味合いがこめられているアルバムなのかもしれない。いずれにしろ、彼らにしてはめずらしく楽しみに満ちた作品だ。